BLOG

【法人税・繰越欠損金】喫茶店が不動産売買を行った事例

法人税のはなし

裁決事例

令和4年1月12日裁決事例は、法人税の実質所得者課税の原則の適否が争われた事案です。

(令和4年1月12日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

実質所得者課税の原則って、昔はその適用が争われたものの、最近はめっきり息を潜めているのだと思っていたのですが、しっかりと適用されていたんですね。

「国税不服審判所では、納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するとの観点から、先例となるような裁決については、公表しています。」

とあるのですが、この事例、公表した方が良かったのだろうかと、少し疑問に感じます。

事例を見るに、繰越欠損金の売買

事案の概要をざっくり説明すると、喫茶店を営んでいた法人(本件法人)があり、多額の繰越欠損金を保有した状態で、解散の決議を行っていたところ、他の法人で不動産業を営んでいる法人の代表者から、誘いを受けて、本件法人で、不動産の売買等を実施したところ、この不動産売買による所得は本件法人に帰属しないとして更正処分を受けた事例です。
(誘った代表者の他の法人の所得と認定して増額更正処分。)

売買で儲けたお金は、貸付金などにより還流させていたようです。

裁決書(抄)にある情報は限られていますが、宅建業の免許や、契約書の名義など、形式的な面は本件法人名義にするなどしていたようでして、原処分庁の主張を見るに、関係者の供述(聴取書)にかなり依拠した処分となっていました。

税務調査をしていた頃を思いだした

本件とはもちろん関係ありませんが、税務調査をしていた頃に、誰の目から見ても、おかしいでしょ、という事案を担当したことがあります。

ただし、残念なことに直接証拠がなく、間接証拠(その他のもろもろの状況や、関係者の供述)しかなかったので、なかなか更正処分をさせてもらえませんでした。

その時に何回も言われたのが、

「関係者の供述は、審査請求や訴訟の段階でひっくり返される(供述者が、やっぱり違いましたと言い始める)ので、証拠として依拠すべきではない(もちろんそうならざるを得ない場面もあると思いますが。)」

ということです。

この事例、まさにこれが起きていました。

本件法人の代表者や、その従業員の供述を基にして更正処分をしたところ、審査請求で、見事に

「申述を行った際には請求人代表者に対する悪感情があったことから、請求人代表者が不利になるようなことであればと原処分庁所属の調査担当職員が記載したものを全て認めてしまったものであり、後悔している旨申述した。」

と、言われてしまっていました。

本当に起きるんですね。

ほかに証拠はなかったのだろうか

内容的にリョウチョウ事案かなぁと思われるので、この観点からの調査もしているとは思うのですが、本件法人の株式譲渡(誘った代表者の法人が100%取得しています)のやりとりの資料で、繰越欠損金について書かれたものはなかったのだろうか?と思います。

繰越欠損金を多額に有しており、解散決議をするくらいですので、おそらく瀕死状態の法人で、その法人を買収する動機って、繰越欠損金以外では、この法人が持っている不動産に価値がある場合くらいしか思いつきません。

今回はそういったケースではないので、なんで、瀕死の法人の株式をお金払って買ったんですか?という素朴な疑問が生じるわけで、その、なんで?に対する答えは一般的には繰越欠損金になるわけですが、メールや書面にそのことを書くことはせずに、口頭でやりとりをするようにしていたんですかね。

繰越欠損金目的で法人を買ったことが、すなわち、実質所得者課税の原則の適用が認められることにつながるわけではありませんが、少し気になりました。

特定株主等によって支配された欠損等法人の欠損金の繰越しの不適用

繰越欠損金をどうにかして使えないか?といったご相談をお受けすることがあるのですが(知り合いの会計士などを通じて)、ないですよ、とお答えしています。

経営をしている方々は皆さん同じことを考えられ、その依頼を受けた、いろいろな士業たちが考え、結果、編み出したスキームは法改正で塞がれる、という長い歴史を経ていますので、0%とは言いませんが、徳川埋蔵金を探すようなことだと思っているためです。

と、繰越欠損金の利用について相談を受けたときにいつも思い出すのが、この規定でして、いつから適用になったのかな、と調べてみましたところ、平成18年度税制改正から導入されていました。

f1808betu.pdf (ndl.go.jp)

どういった制度かをざっくりと説明すると、繰越欠損金を持っている会社を買収して、その法人で新しい事業などを始めた場合には、その会社が持っていた繰越欠損金の繰り越しを認めませんよというものです。
(繰越しが認められないので、結果として控除も認められないということです。)

今回の事例も、株式を取得し、喫茶店から不動産業なので、適用がされるような状況にありそうにも思ったのですが、これも、該当しないようにしていたんですかね。

この事案が果たして、「納税者の正当な権利利益の救済を図るとともに、税務行政の適正な運営の確保に資するとの観点から、先例となるような裁決」であるのかは、あまりよくわかりませんが、いずれにしても、とても勉強になりました。

日々精進。

タイトルとURLをコピーしました