プレスリリースの内容
「当社元社員による不正行為及び同行為の調査結果等に関するお知らせ」というプレスリリースが2022年4月20日付けで公表されていました。
https://www.naganokeiki.co.jp/userfiles/files/c6124075b1a425b3b1de87cf2796d02c.pdf
内容は取引先と通謀した架空請求のようです。
発覚した経緯は関東信越国税局の税務調査とのことでした。
どうやって税務調査で発見されたのか
この類の記事を見ると、どうやって税務調査で発見されたのか?を考えてしまいます。
公表情報を参考にして考えてみました。
- 起票者と承認者が同一の取引をピックアップした
お知らせに、「2014 年 10 月以後、Aは不正請求処理の承認権限を代行することができる地位に昇進したため、不正請求処理の起票と承認はAが一人で行っていたことが判明し」とありましたので、稟議書などを、ばーっとめくっていく中で、起票者と承認者が同一の取引をピックアップして、反面調査など、いろいろと調べていった結果、架空取引であることが判明したということが考えられます。
稟議をシステムを使用して行っている会社の場合は、同一者による起票と承認はできない仕組みになっていたりもしますが、紙での稟議だったのでしょうか。
- 取引先を全件、国税が保有する申告データで検索した
税務調査の一環として、取引先の申告の有無などを検索することをしています。
一件一件、法人名や住所をシステムに入力して検索するので、売上高数十億くらいまでの規模だと、気合でやり切れるのですが、上場企業の規模感だと、結構つらいように思います(csvデータを使って、一気に検索をできるようにするなどしても良いように当時思っていたのですが、今はどうなっているんでしょうかね。)。
「Eはそもそも事業者としての実体すら存在しなかったことが判明しております。」とありましたので、この検索にひっかからないので、実在しないことが判明します。
- 証憑突合で判明した
取引内容は「建物・建物付帯設備及び空気調和設備の清掃事業及びメンテナンス等の作業」とのことで、この類の作業内容で架空請求は割とよく起きているように思います。
「実際に実施した作業費用の単価を増額したり、実際には実施していない作業費用を加算した」とありましたが、だいたい似たような手法で明細の調整を行うらしいので、こういった取引は不正が起きやすいという理解のもとで、注意しながら証憑突合をすると「単価がおかしいぞ」といった風に気づけるらしいです。
そのほか、取引先が法人であるにもかかわらず、振込先口座が個人名義だったりしたので検討の対象となったのかなとも思います。
「Eはそもそも事業者としての実体すら存在しなかった」とのことですので、法人名義の口座を開設することができないと思います。
- 社内メールの調査で判明した
会社のサーバーに保存されているメールデータを入手して、「架空」「水増し」「税務調査」などのキーワードでメールをチェックすることで発覚することもあるように思います。
デジタルフォレンジックですね。
- 内部告発があった
経理部の方などは、おかしな請求などは気づくことがあるらしいのですが、とはいえ、事業部との力関係であったり、行為者が役職者だったりすると、なかなか是正も難しいらしく、そのような場合に情報提供があったりします。
損害額の推定をどうするか
損害額の推定も大変な作業です。
不正の行為者が、意に反して行っている場合などは、PCの中に水増し額などを控えている(自分の身を守るための情報として)こともありますが、今回はそのような状況にはなさそうです。
国税は振込先の銀行口座の情報などを得ることができますし、反面調査などもできるので、詳細な情報を集めることができますが(それでも完全にクリアにすることは難しいですが)、国税にその情報を共有してくれとお願いしても詳細は教えてもらえないので、国税から架空、または、水増しとして否認された取引の請求書などの取引証憑をピックアップして、行為者にインタビューなどをして解明したのでしょうか。
国税が指摘した取引以外にも、同様の取引が行われている可能性がありますが、これはデジタルフォレンジックや行為者へのインタビューで担保するほかないように思います。
その後の対応が大変
国税の外に出て気づくことができたのですが、国税って指摘して追徴すればそれで終わりですので、(もちろん税務調査は大変だと思いますが)そういった面においては、楽だなと思います。
会社や顧問税理士はその後の対応がたくさんあります。
行為者やその上長等の処分をどのようにするか、損害の回復の方法、再発防止策など。
処分や損害の回復の方法は人間模様を垣間見ることになりますし、再発防止策は、一般に言われているようなことを愚直にやるしかないのですが、会社によって事情も様々ですので、いろいろと考慮しなければならないことがあります。
また、導入後に継続して運用する仕組みにすることも結構大変なことのように思います。
日々精進。