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【法人税・税務調査】常務取締役は使用人兼務役員になれるか

法人税のはなし

裁決事例

令和2年12月17日の裁決事例は、常務取締役という肩書を有する従業員が、使用人兼務役員として認められるかについて争われた事例です。

(令和2年12月17日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

常務取締役の就任に至った経緯、組織図、職務内容、稟議への関与状況、給与の支給金額の定め方などから、使用人としての職制上の地位を有しておらず、また、常時使用人としての職務に従事していないとして、使用人兼務役員には該当しないと裁決しています。

税務上の微妙なラインを狙ったような事例ではなく、税務上の取り扱いをあまり意識することなく昇進をさせた結果、気づいたら、使用人兼務役員にはなれない状況となってしまっていた事例のようです。

事案の概要

裁決書(抄)からの事案の概要は下記のとおりです。

  • 請求人は代表取締役Eが100%株式を保有するオーナー企業。
  • H(本件取締役)はEと親族関係になく、下記の経緯を経て常務取締役に就任している。
    1. 昭和59年1月に正社員として入社し、営業の業務に従事
    2. 平成3年に工場長(課長職)に昇格
    3. 平成5年に営業部次長
    4. 平成9年に営業部部長
    5. 平成16年7月28日に取締役に就任
      (取締役の人数を確保する必要があったために就任。職務内容に変化なし。)
    6. 平成27年4月1日に機構改革を行い、職務分掌を変更。Hは他のグループ法人の営業統括を担うようになる
      (他の取締役が請求人の営業統括を担当)
    7. 平成29年2月1日に常務取締役に就任
      (娘婿であるJを営業部長職に登用することに伴い、長年の貢献に見合う肩書を付与するため、「常務取締役」とすることを決定。組織図上、「部長」の表記がなくなる。)
  • 稟議書に本件取締役の承認印欄があった。
  • 取締役会に本件取締役は出席していた。
  • 本件取締役の賞与を支給するにあたっては、勤務成績の査定は行っていなかった。

審判所は、平成27年4月1日の機構改革以後、使用人兼務役員ではなかったと認定しています。

表見取締役

この事案、法人税基本通達9-2-4(職制上の地位を有する役員の意義)についても争われています。

9-2-4 令第71条第1項第2号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる「副社長、専務、常務その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員」とは、定款等の規定又は総会若しくは取締役会の決議等によりその職制上の地位が付与された役員をいう。(昭55年直法2-8「三十二」により追加、平19年課法2-3「二十二」により改正)
第1款 役員等の範囲|国税庁 (nta.go.jp)

「定款等の規定~によりその職制上の地位が付与された役員をいう」とありますが、本件では、会社法に定めるような決議を経ていないので、この通達にあるような状況には該当しないという主張をしています。

通達を条文のように文理解釈のように読んだのかもしれませんが(もしくは、考え得る主張はすべて主張をしておいたということなのかもしれません。)、これについては、「法人税基本通達の制定について」で下記のように書かれているので、ちょっときつい主張の印象を受けました。

したがって、この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。
法人税基本通達の制定について|国税庁 (nta.go.jp)

この通達は、法人税法施行令71条1項2号(使用人兼務役員とされない役員)に対するものなのですが、この条文って、会社法の「表見代表取締役」(会社法354条)から来ているものなんですね。知りませんでした。
(SD「令和3年10月改訂 問答式 法人税事例選集」清文社。森田政夫/西尾宇一郎著。500頁。)

役員しかいない会社

では、専務取締役や常務取締役といった役職を付すと、即NGとなるかというとそんなことはありません。

とても小さな会社であっても、対外的な交渉をうまく進めるために、このような肩書を付している会社もあります。

で、そういった方々が、使用人としての職務を担っていないかと言うと、そんなことはなく、むしろ、彼らしか使用人としての職務を担う方がいないという状況だったりします。

これについては、通達の逐条解説で下記のように解説されています。

いわゆる自称専務、通称常務のように、職制上は単なる平取締役であってその実質は使用人兼務役員として認められる者については、その実質に即して取り扱われることになる。
(「法人税法基本通達逐条解説 九改訂版」佐藤友一郎著 814頁)

専務と常務のどちらが偉いのかについては、島耕作を読んでいただければ、明確にお分かりいただけるのではないかと思います。
(確か、係長のときだけ順番が違うので、役職順に読んでいくと話がおかしなことになりますので、ご注意くださいませ。)

日々精進。


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