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【会計】備忘価額が法務にも影響する場面があるそうです

会計のはなし

「備忘価額」が研究のテーマ

お盆シーズンということもあり、お仕事が落ち着きモードですので、ここぞとばかりにCPEの単位取得に励んでいます。

CPEのeラーニングが結構充実しておりまして、会計に関するものから哲学的なもので、幅広く学ぶことができます。

会計のプロですので、さすがに会計に関する講義も受講せねばということで、講義名で異色を放っていた、備忘価額について論点整理をされた結果を発表されているものを受講しました。

「備忘価額」という、実務でよく目にするものの、真面目に考えることがない事柄を研究の対象にするなんて、「攻めるな~」という思いと、「なんだかおもしろそう」というのが受講前の印象です。

受講しての感想

論点整理であり、何か新しいことを発表する場ではないということを認識せずに、受講してしまったので、完全に私の落ち度なのですが、

「その論点は確かにそうだと思うし、わかる。」
「で、どうやって解決しようかということについては踏み込んでくれていない?」

というのが感想です。

 

発表は、

「問題提起」(ここが結構面白かった。そして、わくわくさせられた。)


「会計・税法・会社法などからの検討」(それぞれで検討しているので、ここが講義の大半)


「問題に対する考えの発表」

という流れで進みました。

 

問題提起がおもしろかったので

「会計・税法・会社法などからの検討を受けて、どんな提案をしてくれるのだろう」

と、わくわくする時間が結構あったのですが、具体的な提案がないように感じたので、肩透かしを食らいました。
(会計士の誰もが見ることができる場なので、下手なことを言えないということもあるのだとは思いますが。)

細かい点だとは思うのですが、事例の貸借対照表の貸借があっていませんでした。。

会計士や税理士じゃなかったら、しょうがないかなとも思えるのですが、やや準備不足感が否めない印象を受けてしまいました。。

ただ、お話の内容からして、かなりの時間をかけて膨大な資料をリサーチされているようでしたので、その膨大なリサーチとそれらを整理した内容を100分にまとめてお話していだけるので、とても有意義な講義だと思います。

研究の内容自体はとても面白かったです

「よく、調べたなぁ~」と思ったのですが、「備忘価額」は、法令や会計基準で定義はされていないそうです。

では、一般的な「備忘価額」についての認識が何かというと、名前の通りなのですが、

「資産があることを忘れないようにするために付すもの」

とのことでした。

これを法的な問題に紐づけてらっしゃったのですが、この問題提起がとても面白いものでした。

問題提起

「裁判所が、債務超過に陥っており、0円の価値と評価される非上場株式に対して、譲渡命令を出せるのか?」

という論点があるとのことです。

この論点には、最高裁判決(最判平成13年2月23日(LEX/DB文献番号28060352))があるとのことで、債務超過に陥っており、0円の価値と評価される非上場株式に、譲渡命令は発することは許されないと判示されているとのことでした。

執行したとしても債権者の債権額が減るわけでもなく、また、執行費用を賄うこともできないので、制度趣旨にそぐわないといったことのようです(ざっくり言うと)。

では、

「備忘価額として1円以上の価額が付されていれば、譲渡命令を発することができるのか?」

というのが、問題提起です。

法律事務所に在籍していた頃に、

「意外なところで会計が法務に関連するんだなぁ~」

と思うことが多々あったのですが、これは初見でした。

会計から検討

企業会計原則で「備忘価額」という言葉が使用されているのですが、これは「有形固定資産」についての規定であって、無形資産には同様の規定はないとのことでした。

「備忘価額」とは、資産があることを忘れないようにするためのものなのであれば、

「無形資産にも同様のことが言えるのではないか?」

となるのですが、おそらく、無形資産は商標権のような公的な機関などに登録されるものが一般に想定されているので、備忘価額が必要なかったのではないかといったことをおっしゃられていました。

ただし、棚卸資産の評価に関する会計基準において、営業循環過程から外れた棚卸資産の評価切り下げに関する取扱いとして、
「処分見込価額(ゼロ又は備忘価額を含む)」(9項(1))
まで切り下げるといった記載がされており、0円もあり得るので、備忘価額とは、資産があることを忘れないようにするためのものという説明のみで、会計基準を一気通貫して、説明しきるのは難しいそうです。

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20190704_03.pdf

税法からの検討

貸倒損失の法人税基本通達(9-6-3)や、圧縮記帳を検討材料にされていました。

文献などでは、備忘価額を付すことが求められていることについて、備忘価額を付さないと簿外資産が生じ、簿外で債権を回収するなど、課税逃れができてしまうので、それを防ぐために「備忘価額」を付すことを求めている旨の解説がされているとのことでした。

これまた初見だったのですが、「備忘価額」に関して触れた裁決事例(昭和45年12月2日裁決)があるとのことでした。

論点は青色取消し処分が適正であったかという点なのですが、備忘価額を付して貸倒損金処理をしているので、隠匿の意思または行為の存在は認めがたいとして、青色取消処分をした原処分庁の事実誤認としたとのことでした。

会社法からの検討

分配可能額などを用いて検討されていました。

分配可能額の算定にあたって、備忘価額についての調整規定はないことから、備忘価額が付された資産が分配可能額に含まれてしまっているので、その点は法の手当が必要なのではないかといったことをおっしゃっていました。

詰まるところ

会計・税法・会社法などからの検討の結論は、
「備忘価額とは、単なる記号のようなものである」
ということとなりました。

この結論を受けて、問題点の解決にはつながらなさそうということのようです。
(ここがつながったのかと、勝手に勘違いしてわくわくしていたわけです。)

詰まるところ、債務超過の会社であっても、その会社の株式を取得しようとする会社が存在する以上は、その株式には何かしらの価値があるのではないかとのことでした。

こういった会社の株式の売買にあたって、実務的には1円で譲渡すると思いますが、1円というのは会社の価値を1円と評価したのではなく、暫定的評価としての1円ということではないかと整理されていました。

無形資産の評価を適切に行いましょうということなのかなと思ったのですが。

この、
「債務超過の会社であっても、その会社の株式を取得しようとする会社が存在する以上は、その株式には何かしらの価値があるのではないか」
という結論について、
「問題提起の場面でみな考えることなんじゃないかな?」
と思ったわけです。

貸借対照表に、会社が保有している資産がすべて記載されているわけではないというのは、みなさん感覚としてお持ちなのではないかと思います。

ネームバリュー、顧客リスト、販売網、ノウハウなど貸借対照表に計上されていないものの、会社が保有している資産は挙げればきりがないと思います。

なので、企業を買収した際に、時価純資産価額と取得対価の差額をすべて「のれん」として処理することはせず、PPA(パーチェスプライスアロケーション)を行って、無形資産を認識しようというのが会計上の取扱いだと思っています。

https://jicpa.or.jp/specialized_field/publication/files/2-3-57-2a-20160621.pdf

で、PPAが浸透してきているので、これを差押え対象資産の評価実務に活かしましょうという流れになるのかと勝手に期待していたのですが、実務上、債務超過=株価0円としがちであるが、譲渡命令の場面なども意識すると、この実務には問題があるという、問題提起に留まっていました。
(そもそも、論点整理なので、問題提起までがあるべきなのかもしれません。)

まずは、法務の論点をしっかりと私が理解すべきなのかもしれません

0円のものについて譲渡命令を出すべきではないという判示について、

  • 譲渡命令を出せるとすると、債権者が債権額を減らすことなく、債務者から価値のあるものを取得できてしまうことが問題なのか?
    (債権額が減らないので、会計上0円と評価されてしまうものを取得し続けることが可能となる?)
  • 会計上0円と評価されてしまう結果、債権者は実際には価値があるものを債権の回収として取得することができないことが問題なのか?
    (債務者が過度に保護されてしまう?)

が、わかっていません。

ジャストアイデアなので、突っ込みどころ満載かもしれませんが、執行を望んでいる債権者に、債務超過の会社の何に価値を見出しているのかと、その価値をいくらと見ているのか、主張させてみるのはどうなのかなと思っています。

債権者としては、価値を低く主張するインセンティブがあると思いますが、そこは、しっかりと論理的に説明できていないと命令を出さない、鑑定人による評価の妥当性の検討を行うようにするなどすれば、一応は制度としては成り立ちそうだなぁ~、なんて考えたりしています。

面白い論点を発見することができました。

これからも歩きながら、ふと考え始めたりするのだと思います。

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