週刊エコノミストの記事
毎年このくらいの時期になると、週刊エコノミストさんが税理士や会計士をネタにした号を発刊します。
内容は毎年だいたい似通っているように感じているのですが、実際に業界にいる税理士や会計士のコメントが載っていたりして、業界のトレンドを知ることができるので、ついつい読んでしまいます。
2022年2月22日号が「これから勝てる 税理士 会計士」というものでして、その記事の中で「会計士、弁護士、税理士 積年の職域『縄張り争い』」という項目がありました。
縄張り争いというと、税理士会が会計士協会に、会計士に無条件に税理士資格を与えるのではなく、税法の試験を受けさせるべきといった主張をしていることが思い浮かんだのですが、それ以外にも、会計監査など公認会計士しか担うことができない分野への参入を税理士会は求めているとのことでした。
税務署の職員上がりに会計監査は無理?
会計士側からすれば、「百歩譲って試験合格組に監査業務を認めることはできても、税務署の職員上がりにやれと言っても無理だろう」となる
という記載がありました。
個人的な意見としては、
「『税務署の職員上がり』=『国税で勤め上げた職員』という前提を措くと、確かに難しそうだな」
と思いました。
能力云々ではなく、会計監査と税務調査のアプローチの違いによるものです。
会計監査と税務調査のアプローチの違い
会計監査は基本的には分析的実証手続き(請求書などの証憑と一つ一つの仕訳を照らし合わせるのではなく、指標となる数値と勘定科目の残高の推移等が整合しているかを検証するような手続きです。)で財務諸表が全体として適正であることを検証します。
精査といって、証憑と仕訳の内容が一致しているか確認するといった手続きを行うこともありますが、手続きのメインは分析的実証手続きだと記憶しています。
よって、何か異常値が検出されるなどしない限りは、一つの取引をじっくりと多方面から検証するといったことは基本的にはしません。
対して、税務調査は、実施する部署や税目によって多少の違いはあれど、個別の取引について、税務上の取り扱いに誤りがないかを検証しますので、会計監査のように分析を行うことはせず、個別の取引を多方面から検証することに終始します。
たとえば、事務所の家賃を検証する場合、会計監査であれば、まず、賃貸借契約書を閲覧して、月額賃料や賃貸開始時期を把握します(フリーレントや資産除去債務の論点は割愛します)。
そして、期待値(=月額賃料×賃貸期間)を算出して、期待値が決算書数値と近似しているかを検証します。
税務調査であれば、賃貸借契約書を閲覧することは同じですが、チェックの観点が、
貸主は非居住者ではないか?
管理費等の支払いは消費税の課税取引で良いか?
物件の用途は役員の個人的な目的ではないか?
などであり、期待値を算出して云々といったことは行いません。
売上取引の検証の場合においても、証憑突合を会計監査においては精査として、税務調査では検証のファーストステップとして行いますが、会計監査では証憑の信ぴょう性について、積極的に検証を行うことは基本的にはしません。
税務調査では、
仕入れの証憑も併せて検証してみたり、
粗利が他の取引に比して低くなっていないか検討してみたり、
決済のタイミングが他の取引と相違していないか?
など、どんどんどんどん、より詳細に突き詰めるように検証を進めていくという違いがあります。
分析だけではすごく不安
私自身、国税から監査法人へ転職して会計監査を行っていたわけですが、分析的実証手続きだけで検討が終了してしまう場合など、
「本当にこれで大丈夫なのかな?」
と不安だったことを覚えています。
新人として監査法人への入所でしたので、監査チームの一員として先輩方の指示に従うため、結果として、会計監査で税務調査のようなことをすることはありませんでしたが、もしも、経験者枠採用で入所して、主任のような立ち位置で監査に携わっていた場合は、税務調査のような進め方で会計監査をしてしまい、期限内に終わらせることができないなど、困った状況になってしまったのではないかと思います。
細かな違いを挙げればきりがありませんが、会計監査を行っている会計士の数字のセンスはやはりすごいと思いますし、税務調査を行っている国税調査官の間違いを見つけるセンスもやはりすごいと思います。
それぞれ認め合えばいいのではないかと思うのですが、実際はなかなか難しいようです。
日々精進。