法人税の論点
少し前になりますが、出版社の方とお話をしていて、法人税の論点はもう出尽くしたと言われているといったお話を伺いました。
たしかに、税務訴訟に関する読み物を眺めてみても、国際税務の事案などが新たに登載されていたりはするものの、いかにも法人税の論点です、といった論点については増えていない印象があります。
税務大学校で行う討論の題材として税務訴訟の事例(ペット葬祭業事件など)を使うため、当時がっつりリサーチをしたということもあり、この手の書籍を読んでも、目新しい情報に出会うこともないので、しばらく、この手の勉強から遠ざかっていたのですが、独立して時間が出来たこともあり、税務について考察している読み物を購入して、読み始めました。
収益事業に関する論点などは、議論をしてみると、発言者の価値観に結論が左右されるので、議論の題材としてはおもしろいな(実務では当たりたくないですが)と思っているのですが、交際費の論点もなかなかおもしろいです(混沌としています)。
交際費の論点
交際費の論点は、企業が支出する様々な費用のうち、いかなるものを税務上の交際費として取り扱うべきか(税務上の経費とは認めない取り扱いとすべきか)というものです。
学説では、旧二要件説、新二要件説、三要件説といったものがあるのですが、論文や専門書籍を読めば読むほど、税務上、交際費として取り扱うべきものがなんなのかがわからなくなります(読んで理解できないということではなく、みなさん、いろいろなことをおっしゃっているので、みんなが納得できそうな落としどころを見出せないということです。)。
三要件説については、下記が参考になると思います。
(参考)https://www.tokyozeirishikai.or.jp/common/pdf/tax_accuntant/bulletin/2016/jun_03.pdf
あくまでイメージですが、税務調査の現場では、単に支出額の総額が大きいであったり、接待交際っぽい(ここがかなり主観的)といった理由で、否認に至り、それが裁判までいってしまって、裁判官や学者が、なんとか論理的にきれいにまとめようとしたところ、上記のような様々な学説が誕生してしまったのではないかなと思っています。
税務大学校で研修を受けていたときに、税務上の交際費とはなんたるかを調べて、議論する機会があったのですが、リサーチの過程で発見した、個人的にお気に入りの主張として、
「接待交際を受けるものにとって、喜ばしいものでないと、個人的な歓心を買えず、接待交際とは言えない。つまり、お酒が嫌いなものにとっては、お酒の場は喜ばしいものではないので、接待交際費に該当しない」
というものがあります。
(手許にリサーチの記録がないので、詳細は曖昧ですが、接待を受ける方の主観も考慮すべきといった主張だったと記憶しています。)
学説を主張するにあたって、実務上、その判定方法がうまく運用できるか否かは関係ないとは思いますが、接待を受けた方が嬉しかったのか否かって、どうやって経理担当者の方が把握するのでしょうか。
仮に、取引先の方が下戸であることを知っていたので、納税者が飲み会代を交際費として処理していなかった場合に、税務調査で、その取引先の方へ反面調査して、下戸であることを確認して、
「下戸であることはわかったが、おいしい料理を食べて、楽しい時間を過ごせたとおっしゃっていたではないですか!?」
とかいって、反面先に楽しかったことを認めさせたりするのでしょうか。
学説を読むときに、
「この学説に沿うと、どうやって実務が回るんだろう?」
なんて、想像したりすると、結構楽しく学説を読めたりします。
狭山茶の同封が交際費?
税法通達の逐条解説、コンメンタール、税務釈義は、権威のあるものですので、税法を理解するにあたっては、とても重要なものだとはわかっているのですが、非常にお上品な印象を持っていまして(本当は、著者はもっと書きたいことがあるんだろうけど、書けないんだろうなぁ、とかです。)、読んでいて、わくわく感がないというか、
「おぉ、チャレンジしている!!」
といった記載がないなと感じています。
そんな中で、故山本守之先生の書籍は、明確にご自身のご意見を、たとえ、それが権威のあるものの内容と違ったとしても、真正面から
「その考え方は違うのではないか?」
と書かれているので、読んでいて、とてもわくわく感があります。
ということもあり、今、「事例から考える 租税法解釈のあり方」(山本守之著、中央経済社)を読んでいるのですが、カタログに同封されたお茶の贈答費用が税務上の交際費とすべきとして更正処分され、審判所で争われた事案についての解説がありました(同著。13頁。)。
1957(昭和50)年7月21日の裁決事例ですので、残念ながら、公表裁決事例ではありませんでした。
事例を考えるときは、概要を見た後に、自分が調査官だったら、否認していたか否か、否認するとして、どういった内容(交際費・寄附など)で否認するかを考えるようにしています。
このお茶の事案については、不覚にも、交際費っぽいと考えてしまいましたが、裁決では
「交際費に該当しない」
という結論となったようです。
交際費に関する税務訴訟というと英文添削などが有名な事案だと思いますが、このお茶の事件を見て、
「交際費が論点になった事案で、まだ知らない事案があった!!」
と、少しときめいてしまいました。
しかも、概要を見て出した自分の考えと、裁決の結論が違っていたので、もう、テンションMAXです。
(結論が違っていたということは、理解できていない視点があったということなので、新しい何かを発見できるわくわく感からです。)
常識の範疇でくだらないことを真剣に考えてみる
事案を考える際には時代背景も気にするようにしています。
租税の判例はかなり昔のものであっても、未だに、重要な判例として取り扱われているものが結構あるのですが、長い年月を経て、世の中が大きく変わることで、今になって見返してみると、当時の結論とは違った結論になりうる事案もあるのかな、なんて思ったりしています。
この事案について言うと、お茶が同封されていたことが気になりました。
狭山茶とのことですので、それなりの良い品だったのかもしれませんが、今時、お茶をもらってもそこまで嬉しくないと言いますか、いいお茶だったら、自分で産地などから選んで買って味わいたいと思うのではないかと思います。
なので、カタログに同封されたお茶の贈答で、受領者の歓心を得ることなんてできないんじゃないかと思ってしまうのですが、当時は、そうでもなかったのでしょうか。
それとも単に納税者の所在地が狭山茶の産地だったからなのでしょうか。
ちなみに価格は一個300円とのことです。
昭和50年の事案ですが、そこまで物の価値が上昇したとは思えないので、現在の価値としても一個300円で感覚的に間違っていないと思われます。
ただ、カタログのダイレクトメールにお茶を同封していたとのことでしたので、発送通数が毎年それなりにあり、総額で見ると、けっこうな金額になっていたため、費用の中で目立って、税務調査において、議論となったのかもしれません。
この論点に、現在税務調査をしている担当官が遭遇したら、交際費として否認するのでしょうか?
「お茶を贈答して、歓心を買うことはできるとは思えないが、販促物とも言えないし、、、、」
みたいになるんですかね。
同封した理由から考えてみる
納税者の主張として、単にダイレクトメールを送っただけではそのままゴミ箱行きになってしまうので、お茶を入れることで「おや、何か入っている」と開封することにつながるため、同封したものであり、個人的歓心を買うためのものではないと、同封した理由が説明されていました。
「なるほどね。合点。」と思いました。
ふと思い出したのですが、上場企業などが株主総会で配るお土産は、税務上の交際費にあたるのですが(自社製品などは除く)、あれって、株主の歓心を本当に買えているのでしょうか?という疑問があります。
株主総会に来てもらうためのきっかけといえるのであれば、今回のダイレクトメールのお茶と同じ主張で反論したらどうなるんだろうかなんて、考えてしまいます。
(お茶の事案に比べるとだいぶ広告宣伝費の感じがしないので、無理筋ですかね。不特定多数の考え方についてはお茶の事件の裁決事例で検討されていますので割愛。)
こういった具合に、税務上の交際費を真剣に考えだすと、ドツボにはまります。
間違いなく、判断者の価値観に左右されるので、異論なく、皆が納得できるような判断軸であったり、結論を見出すことって難しいのではないかと思っています。
ちなみに実務において、
「三要件説によると~」
なんて絶対に言わないようにしてください。
カオスになる可能性がとても高いと思います。
日々精進。