国税の職場にいると文章を書く訓練ができます
先日、出版社の方とお話をしていて、
国税OBの方が
「国税にいた時にいろいろな文章を書いて、赤ペンを入れられたが、その経験が独立後に活きている」
とおっしゃっていたという話を聞きました。
国税にいると、報告書であったり、決議書(会社でいうところの稟議書)であったりと、さまざまな場面で文章を書く機会があり、すべて、上司のチェックが入ります。
上司によって、好みの書き方などがあるので、
「趣味の範疇じゃないのかな?」
と思うような修正もあったのですが、今、振り返ってみると、とても良い経験だったと思います。
同じ事を二回書いてしまうようです
「村上ちゃんの文章は、同じ事を違う言葉で二回書くんよね」
という未だに忘れられない指摘があります。
言われた当時はまったく腑に落ちませんでしたが、この指摘が頭から離れず、それ以降、文章を書いたあとは同じ事を二回書いていないか確認するようになりました。
推敲した後の文章だとその指摘が正しいのかわかりにくかったのですが、だだだっと書いた状態の文章を見返してみたところ、同じ事を言葉遣いを変えただけで書いていることがよくあることに気づけました。
年々、誰かのチェックを受ける機会が減ってきているので、当時はとても恵まれた環境にいたんだなと、振り返ってみて、そう思います。
決議書を書くことは、税法の当てはめの訓練にもなります
決議書には、税務調査で指摘をした事項を書くのですが、
いつ、どこで、何が、どうなっていて、それを税法に当てはめると、どのように間違っているのか、あるべき処理は何か、という流れで報告書のようなものを書きます。
出来るだけ簡素、かつ、わかりやすく、そして、内容に漏れがないように書く必要があるので、文章力が上がります。
決議書を書いている段階で、資料の入手漏れや、適用要件の検討漏れなどに気づくこともあるので、文章の書き方だけではなく、税法のあてはめの練習にもなったように思います。
私が国税に在籍していた頃のことなのですが、若手調査官の文章能力が落ちてきており、決議書が自分で書けない調査官がいるということで、決議書の文例集が改訂されました。
それを丸写しすると決議書が完成するといった風になっていたように思います。
(文例集は昔からあるにはあったのですが、内容が古すぎて参考程度にしかならず、結局自分で書くということをしていました)
文章を書くだけが仕事のすべてではないですが、せっかくの文章力アップの機会を失っているようで、なんだかもったいないように思います。
「公用文の書き方」というものがあります
私はあまり厳密に守っていなかったのですが、行政文書は、「公用文の書き方」というルールに沿って文章を書く必要があります。
(通達を発遣するような部署に配属にされると、かなり厳密に守るように指導を受けるようです。)
漢字で書くのか平仮名で書くのか、(1)(2)の次は、(イ)(ロ)(ハ)といった具合に、かなり細かくルールが決まっています。
とても覚える気になれなかったのですが、あるべき記載がわからず迷ったときは、税法通達を見ると良いと教わりました。
今は「公用文の書き方」に沿う必要はないので、自由に書いていますが、調べ物の際に税法通達を見ると、「芸術的だな」といつも思っています。
(きれいに統一されているので、反対に芸術性がないのかもしれませんが、「芸術的」以外に良い表現が思いつかず。)
文章力は大人になってからでも上がる
文章の書き方って、学校でどれだけしっかり習ったかで決まるかと思っていたのですが、実際は職場に出てからの方が、影響が大きいように思います。
というのも、これまで監査法人などのプロフェッショナルファームに勤めてきましたが、新人さんの文章って意外とめちゃくちゃだったりするんですよね。
会計士試験の二次試験が論文式の試験なので、書き方を必然的に身に着けているだろうと勝手に期待してしまうのですが、
「彼は論文式試験でいったいどんな回答を書いたのだろうか?」
と非常に興味がわくような文章を書く新人さんもいます。
(計算科目が強かったのかもしれません)
そんな新人さんが数年後には、普通に文章を書いていたりするのをみると、文章力は大人になってからでも上がるんだなと思います。
こだわり過ぎるのも良くない
ただ、文章の綺麗さにこだわり過ぎるのも良くないなとも思っています。
どこの会社だったか忘れてしまいましたが、官僚さんが社長としてその会社に来たのですが、部下の方がインタビューで、
「新しい社長は文章の直しの指摘ばかりして、肝心の内容については触れてくれない」
といった風なことを言われていたのを覚えています。
監査法人も同じ考えなのかもしれません。
ある程度の誤字脱字や文章としてのわかりにくさが残ってしまっていても、それよりも実際の言葉で伝えることを重視しているのではないかと思います。
セミナー資料が顕著に違いが出るように思います
セミナーの資料の作り方に顕著に違いが出るように思っています。
監査法人系のセミナー資料は、制度の解説ものは除いて、問いかけが書いてあるペラ一枚だけで1時間くらいしゃべったりします。
伝えたいことをすべてそこに書くのではなく、気づきであったり、考えるきっかけを与えて、何を書き残すのかは出席者に委ねるということなのかなと勝手に理解しています。
カンペに話すべきことがぎっしりと書かれているのかもしれませんが、この資料の作り方ですとスピーカーの個性が色濃く出る(話す内容で勝負となるため)ように思っており、出席者の立場としては、このやり方が好きです。
アドバイス時に気を付けていること
クライアントにアドバイスをしていくなかで気を付けていることがあります。
クライアントが作成した文章があまりきれいではなかったり、交渉の場面などにおける見せ方としてちょっと気になる点があった場合であっても、あまり積極的に手を入れないようにしています。
とある案件で、国税OBの方が、クライアントが作った説明資料のチェックを行っていたのですが、その方は、説明資料の内容ではなく、形式面のアドバイスをされていて、クライアントからがっかりされているのを見たことがあるためです。
国税職員向けのアドバイスとしては間違っていないと当時思ったのですが、国税の外に出て、クライアントに向けてのアドバイスとしてはちょっと違うのではないかと思っています。
クライアントは形式面のチェックではなく、内容面(記載している内容に誤りがないか、誤解を与えるような記載はないか、説明漏れがないかなど)を期待されていると思いますし、実際にみなさんそのようにご依頼時におっしゃるように思います。
「ポンチ絵」ってご存じですか?
監査法人のスライドの作り方の傾向を書きましたが、国税にも資料の作り方に独特のものがありまして、「ポンチ絵」という1枚にすべての要素をまとめたペーパーを好みます。
税大の講話で国税庁の幹部の方が、
「このポンチ絵を使って国税庁長官にご説明をした!!」
と、とても楽しそうに話されていたのを覚えています。
確かに資料をペラペラめくりながら話すよりも、ポンチ絵を指さしながら、ご説明差し上げた方が、分かり易いだろうなと思いました。
説明を受けた側も、ポンチ絵をイメージしながら、後でいろいろと考えることもできますし。
複雑な制度をわかりやすく一枚の図にまとめられたご担当者の方に敬意を表します(めっちゃ大変だったと思います)。
日々精進