過怠税
印紙を適切に貼付していなかったり、所定の方法により消さなかった場合(印紙に割り印を押さなかった場合)は、下記の通り、過怠税が課されることとなっています。
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/inshi/tebiki/pdf/04.pdf
印紙税の過怠税について、ネットでいろいろな情報が飛び交っており、中には疑問に感じる説明もあったので、少し書いてみようと思います。
貼付漏れとなっていた契約書には別途印紙を貼る必要があるのか?
3倍だったり、1.1倍だったりが過怠税として説明されているからか、
「この過怠税とは別に、貼付漏れとなっていた契約書に印紙を貼付する必要があるのか?」
と疑問に思われる方がいらっしゃるようです。
答えは必要ありません。
まず、過怠税の根拠条文は下記の通りです。
(印紙納付に係る不納税額があつた場合の過怠税の徴収)
第二十条 第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同項の規定により納付すべき印紙税を当該課税文書の作成の時までに納付しなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該納付しなかつた印紙税の額とその二倍に相当する金額との合計額に相当する過怠税を徴収する。
2 前項に規定する課税文書の作成者から当該課税文書に係る印紙税の納税地の所轄税務署長に対し、政令で定めるところにより、当該課税文書について印紙税を納付していない旨の申出があり、かつ、その申出が印紙税についての調査があつたことにより当該申出に係る課税文書について国税通則法第三十二条第一項(賦課決定)の規定による前項の過怠税についての決定があるべきことを予知してされたものでないときは、当該課税文書に係る同項の過怠税の額は、同項の規定にかかわらず、当該納付しなかつた印紙税の額と当該印紙税の額に百分の十の割合を乗じて計算した金額との合計額に相当する金額とする。
3 第八条第一項の規定により印紙税を納付すべき課税文書の作成者が同条第二項の規定により印紙を消さなかつた場合には、当該印紙税の納税地の所轄税務署長は、当該課税文書の作成者から、当該消されていない印紙の額面金額に相当する金額の過怠税を徴収する。
条文にあるとおり、
「納付しなかった印紙税の額」+「その二倍に相当する金額」or「当該印紙税の額に百分の十の割合を乗じて計算した金額」
を過怠税の金額としています。
そして、過怠税とは何なのかについてですが、下記の通り解説されています。
過怠税というのは、印紙税の課税文書の作成者が、上の方法で納付すべき印紙税を当該文書の作成の時までに納付しなかった場合~に課される附帯税で、~過怠税のうち、納付しなかった印紙税の額に相当する部分は、本来の税額の追徴であって、附帯税ではない。
(「租税法[第24版]」金子宏著。㈱弘文堂。917頁)
※「附帯税」とは延滞税や加算税のことです。(同著。898頁。)
他の国税とは少し違う課税の方法となっていますが、その理由については下記の通り解説されています。
過怠税は、2つの性格を持っており、その第1は、印紙を貼り付けて納付する印紙税を納付しなかったことに対する税額の追徴という性格です。
他の国税で納付不足があった場合には、全て更正などの処分によって、不足の税額を追徴することになっていますが、これに対して、印紙納付の方法によって納税する印紙税は、1件当たりの税額が少額であるため、特に本税としての印紙税の追徴を単独で行わないで、次に述べる行政的制裁としての金額と併せて徴収しようとするものです。
第2は、財政権の侵害行為や侵害行為を誘発するおそれのある行為に対する行政的制裁の性格を持っていることです。
(「税務調査官の視点からつかむ 印紙税の実務と対策」佐藤明弘著。第一法規株式会社。74頁。)
ということで、不納付事実申出書を提出した場合は、貼付漏れとなっていた契約書に別途印紙を貼付する必要はありません。
どうやって、不納付事実申出書を保管しておいたら良いか?(別の調査官から印紙が貼付されていない契約書を見て、不納付ではないかと勘違いされないようにはどうしたら良いか?)という質問を、印紙税の税務調査の際にお受けすることがありました。
可能であれば不納付事実申出書と該当の契約書をまとめて保管することが良いと個人的には考えていますが、その対応が難しい場合は、不納付事実申出書をしっかりと保管しておけばいいのではないかと思います。
不納付事実申出書には契約書の名称と作成年月日を記載しますので、そこでどの契約書か判別がつきますし、あとは、印紙税の税務調査の終わりに調査結果説明のような形で、該当する契約書のコピーを添付してご説明を差し上げていると思いますので、それで、紐づけ可能なのではないかということです。
そもそも原則通り3倍で課税されているのか?
私は東京局で印紙税の税務調査をしていましたが、印紙の再利用など悪質なもの以外は1.1倍で処理していました。
根拠は忘れてしまいましたが、税務調査の場面では、
「税務調査ではなく行政指導なので」
とお伝えしていたように思います。
なので、別に、納税者の側から、
「『不納付事実申出書』を提出するので、1.1倍ですよね!?」
みたいに強く問いかける必要はまったくなく、調査官が進める税務調査の流れに沿って淡々と進めればよいと思います。
ちなみに、3倍で課税する場合の調査手続きは1.1倍の時とは全く違います。
(たとえば書面を留め置きするのではないかと思います)
所定の方法により消さなかった場合は1倍で課税されているのか?
これは調査官や状況によりけりなように思います。
私は、金額も少額で、明らかに失念していただけ(再利用が目的などではない)と言う状況であれば、その場で、割り印をしていただいていました。
記憶ベースですが、1倍の課税事例を見たことがあるように思いますので、地域柄か、調査官の性格なのかはわかりませんが、絶対ないとまでは言い切れません。
指摘を受ける前に貼ってしまう
法人税等の税務調査の一環として印紙税のチェックをするときは、契約書の通数もそこまでないので、
「保管してある契約書を全部持ってきてください」(量が多いときは期間を伝えて絞る)
とお伝えしてからチェックしていたので、
「調査官から指摘を受ける前に印紙を貼ってしまおう」
ということはできないのではないかと思うのですが、印紙税単独調査の場合は、稟議書や押印申請簿から確認をしたい書面を依頼して、会社の方にご準備いただくという流れを取りますので、調査官に提出する前に社内でチェックをして、漏れていた場合は、その場で貼るといったことをしている会社もあるようです。
まず、これ、わかります。
印影の鮮明さがまったく違います。
年がら年中、契約書を見まくっている人間なので、押印から時間が経った契約書がどのようになっているのかは感覚として持っています。
あと、私はこのレベルには達しませんでしたが、印紙のデザインが変わっているので、デザインで最近貼ったことがわかるらしいです。
https://www.nta.go.jp/information/release/pdf/inshi_kaisei.pdf
個人的には、印影などがおかしいので、それで「今、貼ったな」とわかって、何か決定的な証拠はないかということで、印紙のデザインを挙げられただけではないかと思うのですが、判別できるとおっしゃっているOBがいらっしゃったので、おそらくできるのだと思います。
あとは、押印申請簿や印紙の使用簿からも、契約書の作成時に貼付漏れだったことは把握可能です。
なので、こういったみっともない対応はしない方が良いように思います。
ちなみに、契約書に印紙が貼付漏れとなっている旨を伝えたところ、
「印紙貼っておきました!!」
と元気よくお応えされる方もいらっしゃるということを聞いたことがあります。
変なアドバイザーが
「3倍の追徴受ける前に、印紙貼っちゃえばいいじゃん」
などといったアドバイスをされたからではないと思いますが、この場合は、契約書に貼付した印紙が誤納ですので、貼付した印紙について、過誤納還付申請をして、還付を受けることとなります。
もちろん、不納付事実申出書の提出と納税も必要です。
過怠税は全額損金不算入です
税務調査の最終日に決まり文句のようにお伝えしていたのですが、過怠税は全額損金不算入となります(法人税法55条3項1号)。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5300.htm
資料せんといって、過怠税が損金不算入扱いとされているか確認を促す書面を作成しておき、法人税の税務調査の際は加算漏れとなっていないかチェックする流れとなっています。
印紙をちゃんと貼っていれば、印紙の購入費用は損金に入りますが、過怠税として課税されてしまうと、購入費用も含めて過怠税ですので、全額が損金不算入扱いとなってしまいます。
1.1倍の過怠税について書いていて、とても不気味な質問をしてきた納税者のことを思い出したので、次はその話を書いてみようと思います。
印紙税の記事を書き始めたきっかけについては下記の記事をご覧ください。
日々精進。
2024年7月2日に「税務調査を今一度ちゃんと考えてみる本」(税務経理協会様)が発売されます。