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【法人税・役員給与】過大役員給与の形式基準

法人税のはなし

令和4年7月1日裁決

国税不服審判所から公表されている裁決事例集で、少し変わった事例が公表されていましたので、少し書いてみようと思います。

過大役員給与の判定の形式基準の判定に関するものです。

(令和4年7月1日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

事案の概要

裁決書(抄)による事案の概要は下記のとおりです。

  • 代表取締役、取締役、監査役の3人が役員の会社。
  • 取締役の役員報酬について、形式基準を根拠として、過大と認められる部分があるか否かが争われている。
  • 設立時の社員総会で、取締役の報酬の年額を総額5,000万円以内とし、各取締役の割当額は代表取締役に一任すると決議。
  • 「取締役の報酬金額に関する決定書」(代表取締役の押印あり)で、代表取締役は月額XXXX円、取締役は月額〇〇〇〇円と記載。
  • 決定書とは別に「2015年2月1日以降支給」と題する書面を作成し、下記のように記載(表の〇〇〇〇円は決定書の〇〇〇〇円と同じ金額。)。
  • 〇〇〇〇円の金額を「役員報酬」勘定に計上し、そのほか(「基本給」~「通勤費」の合計額)を「賃金」勘定と「旅費交通費」勘定に計上した。
  • 申告書等の提出の流れは下記のとおり。
    1. 令和元年11月期を期限内申告
    2. 令和3年1月23日に、令和元年11月期の法人税について修正申告
    3. 令和3年1月29日に、雑収入の過大計上の減額を求め、更正の請求
    4. 令和3年8月30日付で、雑収入の過大計上分を減算するとともに、形式基準により過大役員給与があるとして、高額な部分を加算した内容の更正処分がされる。
    5. 同日付で「更正をすべき理由がない旨の通知処分」がされる。
      ※こちらについては、増額更正処分において、雑収入の減算処理がされているためと思われる。
    6. 令和3年10月14日審査請求。

過大役員給与の判定の形式基準に用いる金額が、

  • 「取締役の報酬金額に関する決定書」に記載された金額なのか
  • 「2015年2月1日以降支給」に記載された支給総額なのか

が争われていました。

国税側が前者で、納税者が後者です。

裁決では、事実認定により、後者の「2015年2月1日以降支給」によるべきとして、更正処分を取消すべきとしています。

法律には確かに書いてあるが、違和感しか感じない

過大役員給与の形式基準の根拠は、法人税法施行令70条の1項一号ロです。

下記は条文の抜粋ですが、

「定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により」

とされていることから、国税側は「取締役の報酬金額に関する決定書」によるべきと判断したのではないかと思われます。

「2015年2月1日以降支給」という書面には、代表取締役の氏名の記載や押印などがなく、「これらに準ずるもの」というレベル感のものでないということですね。

(過大な役員給与の額)
第七十条 法第三十四条第二項(役員給与の損金不算入)に規定する政令で定める金額は、次に掲げる金額の合計額とする。
一 次に掲げる金額のうちいずれか多い金額
ロ 定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により、役員に対する給与として支給することができる金銭その他の資産について、金銭の額の限度額若しくは算定方法を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員に対して支給した給与の額の合計額が当該事業年度に係る当該限度額及び当該算定方法により算定された金額を超える場合におけるその超える部分の金額

もともと、この形式基準が会社法の役員報酬のお手盛り防止を援用したものですので、どのような決定によるかについても、厳格に判断すべきと考えたのではないかと思われます。

納税者はどのような主張をしたのか

この「取締役の報酬金額に関する決定書」と「2015年2月1日以降支給」という書面はともに議事録綴りに編てつしていたようです(袋とじではなさそう。細かいですかね。すみません。)。

そして、役員分と使用人分を分けて書面を作成した理由として、法人税法上は使用人兼務役員に該当しないとしても、会社法上、労働保険上は使用人兼務役員であることから、別に記載したと主張しています。

とてもしっくりくる説明に感じました。
(法律云々ではなく、どうしてそうしたのかの説明として。)

調査官をしていると、どうしても、税法がすべてのような頭で判断をしてしまいがちですが、実際は、税法以外にもいろいろと考慮すべきことがあり、それらとともに税法も成り立っているんですよね。

調査官の頃から、これは意識していましたが、でもやはり、税務調査のジャッジの場面においては、税法のみで判断をせざるを得ないようにも思います。

なぜこのようなことが起きたのか

初めは、税務調査が入ったのがきっかけなのかなと思って読んでいたのですが、時系列を見るに、そうではなさそうでした。
(修正申告をして、更正の請求をして、そして、増額更正処分なので、おそらく自主修正申告かと思われます。にしても、申告期限から自主修正申告までの期間が空いており、少し違和感があります。昔のやり方で、所得が増える事項のみ修正申告で、減る方は更正の請求を出させるといったこともあったのですが、それだと、なぜ、初めの修正申告で加算処理されなかったのでしょうかね。それとも税務調査でこの論点でもめる→納得した部分のみ、修正申告→減らす方は更正の請求じゃないと認めないという→更正の請求に対して、減らす方を認めつつ、過大役員給与を加算して更正処分。というケースでしょうか。それか、事案の担当者は気づいていなかったが、減額更正のための更正の請求の処理の中で、審理担当から指摘を受けて、否認せざるを得なくなったか。元調査官の戯言です。)

更正の請求といっても、すべてに対して税務調査をしているわけではないので(たとえば転記ミスなど、誰の目から見ても明らかに間違いの是正のための更正の請求など)、本件の、雑収入の減額更正は内容が単純ではなかったのか、はたまた、金額が大きかったのかだったのではないかと思われます。

で、雑収入の減算が認められるかと思いきや、まさかの過大役員給与、しかも形式基準の方が論点になってしまったので、納税者の方びっくりされたのではないかと思います。

実務で、税法上の使用人兼務役員になれない使用人兼務役員の方の、過大役員給与の形式基準を検討したことがなく、残念ながら、このような場合にどのように決議するのが一般的なプラクティスなのかの知識を持ち合わせておりません。

論点となった取締役の方、平成18年4月に取締役に就任しており、その頃から使用人兼務役員だったようでして、争いとなった事業年度においては、株主グループの第2順位で29%の株式所有割合をお持ちだったそうです。

役員就任時から、法人税法上の使用人兼務役員になれないとわかっていたのであれば、決議のやり方をもっと安全な方法でしていたのではないかと思われますので、途中で株式の所有関係が変わってしまったのでしょうか。

ふと、事業承継の関係で株主構成が変わったのかな?なんて思いましたが、親族であれば、代表取締役と同じ株主グループ(第1順位)に入りますので、そうでもなさそうですね。

過大役員給与というと、実質基準の方が取り上げられがちですが、実務的には、この形式基準による否認の方が多い様に感じています。

一度、上限額を決めてしまうと、記憶の彼方となってしまいがちですが、お気をつけくださいませ。

日々精進。


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