インターネットで解決できることが増えた
税法に関するお問い合わせをいただいたときに、会社のご担当者の方がお調べになられていることが多いのですが、インターネットにある情報を参考にされていることが多いように思っています。
確かに、ググれば簡単な質問などはすぐに答えが見つかるので便利ですし、私も、ITに関することを調べたいときや、物を買う時などは、ググってから判断をすることが多いです。
会計事務所などに勤めていると、調べ物をするための各種ツールが揃っているのが一般的だと思いますが、民間企業にお勤めだったりすると、調べ物をしようにも、無料で使用できるツールがインターネットくらいしかないという環境の方が一般的なので、インターネットに頼らざるを得ないのかもしれません。
インターネットの情報はピンキリ
このBLOGでいろいろな情報を発しておきながら、なんですが、インターネットの情報って、本当にピンキリだなという印象を持っています。
その道のプロが読めば、一瞬で、間違った情報であったり、何かしらの意図があって書かれている(バイアスがかかっている)ものだと判断が付くのですが、インターネットでお調べになられる方は、その分野に関する情報をお持ちでない(=その分野のプロではない)ので、お調べになられているわけで、情報を選別するのは難しいだろうなと思っています。
(私も、ITに関する情報を適切に選別できていないという自覚があります。)
ありきたりな方法ではあるとは思いますが、情報を取捨選択するにあたっては、
情報の発信元が公的機関か?
それを専門にされている方か?
が、とても参考になるのではないかと思っています。
税理士ですらないような方が書かれている税務調査に関する情報は、かなり悲惨なことになっていますし(眉唾物の情報が溢れています)、国際税務に関する情報(特に居住者・非居住者判定)も、びっくりするような情報が溢れています。
インターネットを使って調べられる方って、どうしてなのかわかりませんが、こういった間違った情報の方に食いつきやすいように感じています。
(おそらく自身にとって望ましい情報だからではないか思っています)
その道のプロなのであれば、公的機関や専門誌の情報も盲目的に信じてはいけないと思います
税務会計に関連するお仕事をさせていただいて、19年ほど経ったのですが、公的機関(国税庁など)が発する情報や、専門誌の情報についても、盲目的に信じてはいけないなと、この業界に身を置いて、ゆっくりと全体の流れを眺めていくことで気づくことができました。
国税庁のウェブサイトには、税法に関する様々な情報が公表されています。
調べ物をするにも、クライアントに説明するにも非常に便利ですし、信頼性も高いので、かなり重宝しているのですが、文書回答事例や質疑応答事例などのより専門性が高い情報については、質問とその回答に至った背景をいろいろと想像してみるなど、いったんは疑って読んでみた方が良いと思っています。
たくさん読んでいると、傾向が読めてくるのですが、回答する際に、直接的な回答を避けて、別の論点にすり替えて回答をしているものや、ちょっと苦しい理由付けをしているなという印象を受けるものがあれば、その情報については、汎用性がない(その事案だからそうなっただけ)と考えた方がいいように思います。
通達もしかりで、
「え~、本当にこれでいいのかなぁ?」
といった頭で、一度読んでみることをお勧めします。
そういった読み方をすると、通達の見え方が変わってきます。
もちろん、実務においては、税務調査で否認をされないことが一番大切なことだと思いますので、むやみやたらに国税庁が公表している情報に反発した方がいいだなんてことは思っていません。
批判的に見ることで、
「思っている以上に世の中は、ロジカルに物事が判断されていないということが見えてくるかもしれませんよ」
ということをお伝えしたいということです。
専門誌も、いろいろな専門誌を読み漁ってみると傾向がつかめるので結構おもしろかったりします。
国税庁の意見を代弁しているような記事があったりしますし、随分前から言われている税務調査での指摘ポイントが急に記事になっていたりすると、
「また、最近の税務調査で指摘を受け始めたのかな?」
といった風に気づけたりします。
新聞について、いろいろな新聞社の新聞を読み比べしてみると俯瞰的に物事を見ることができるので良いといったことが言われていますが、それと同じような気がしています。
もちろん、専門誌も、新たな気づきや考える機会などを与えてくださるので、とても有用な情報媒体だと思います。
大切なのは、盲目的にならないということです。
(有名な〇〇誌で、著名な〇〇氏が解説していたから、そうなのだ、みたいな。)
税法のリサーチ方法
もともとこの記事を書こうと思ったきっかけは、税法のリサーチの仕方がわからないという方が多いことを知り、では、調べ方を書いてみようということだったのですが、最近、情報の取捨選択の大切さを痛感しており、前置きとして、長々と書いてしまいました。
私が税法での調べ物をする際は下記の流れで行っています。
- インターネットで関連するキーワードを使って検索
- 理解した制度の全体を簡単にメモに起こし、深堀りした方が良さそうな論点をメモ書きに加筆
- 質疑応答事例集で把握した論点についての解説がないか確認
- 法令、通達、通達の逐条解説を確認
- より深い情報が必要な場合は、財務省が公表している税制改正の解説や租研の情報を確認
税制改正の概要 : 財務省 (mof.go.jp)
租税研究 | 公益社団法人 日本租税研究協会 (soken.or.jp)
1番目のインターネットでの検索ですが、制度の全体感を把握することと、全体の中のどこの論点を掘り下げる必要があるのかを大まかに把握する(自分の居場所を確認する)ために行っています。
この段階から、情報の取捨選択は行っており、公的機関が公表しているものは信頼性◎、専門家が根拠付きで解説しているものは〇、専門家が根拠を明示せずに解説しているものは△(自論を展開しているとみなす)、執筆者情報なしの情報や、よくわからない人の情報は×、といった具合に行っています。
コンメンタールが使えると、きれいにまとまっていて、一番手っ取り早いのですが、利用料が少しお高いのと、解説に国税バイアスがかかっているように感じているので、意識的に使わないようにしています。
コンメンタール法人税法Digital | 第一法規株式会社 (daiichihoki.co.jp)
2番目のメモ起こしですが、関連する情報を、だーっとたくさん読むことで、調べたいことの全体の把握と論点の理解ができるのですが、それらを俯瞰的に見ることができないため、意識的にこのステップをかませています。
これを行うと、まだしっかりと理解できていない箇所や勘違いしていた箇所を明確にすることもできます。
3番目の質疑応答集ですが、このステップは飛ばしてもいいのかもしれません。
クライアントに回答する際の根拠として良い(QA方式なので読みやすい、そのものずばりの事例が見つかることが多い)ので、目次でさーっと該当するものがないかを確認しています。
初めて検討する論点の場合は、論点を網羅的に把握するためにも、とても良い手段だと感じています。
4番目の、法令、通達、通達の逐条解説の確認をしない方が結構多い印象なのですが、難しめの論点に対応する際は、絶対に必要な対応だと思っています。
書籍を執筆されたことがある方であれば、お分かりいただけると思うのですが、書籍を書く際は、正確性を完璧に担保しようとすると、条文や通達の丸写しのような文章になってしまうので、ある程度端折ったり、事例を使って、場面を特定するなどしています。
その端折られてしまった情報だったり、除外された場面が案外重要だったりするので、原典を確認しましょうということです。
逐条解説は通達本文では表現しきれなかった背景事情などが書いてあるので、
「今、検討している事例が、この通達が予定している状況に合致しているのか?」
という確認のために読むようにしています。
5番目は、税制改正ものについて調べるときには必須だと思っています。
税制改正の解説には、どうして改正を行ったのかの背景事情や、注意事項を解説してくれており、とても参考になります。
租研の講演については、税務署にいた頃は、外部向けに行う講演というと、担当官が講演用の原稿を棒読みしているという印象しかなかったのですが、主税局の担当官の講演などでは、(ご自身の?)思いを述べられている場面があったりするので、とても勉強になります。
少しアカデミックな読み物ですので、この情報を税務調査で調査官に示しても、ぽか~んとされてしまう可能性が大ですので、その点はご留意願います。
税務大学校で学んだことが活きている
今は、当然のように上記の流れで調べ物をしており、周りの人から言われるまで、気づかなかったのですが、このスキルは税務大学校で学ばせていただけたんだなと思っています。
税法はとっつきにくいものという初めにぶつかるハードルは、日々の研修で、ふと気づいたころには越えていますし、研修生向けの税大の講本は、初学者向けに必要な制度にしぼられているので、制度をおおまかに知るには、とても良かったなと思います。
数年間税務署に勤務した後、試験にパスすれば本科研修を受講することができるのですが、この研修で、より深く、しっかりと調べるための方法を、じっくりと時間をかけて身に着けることができたように思います。
担当教授が研修初期に放った
「君たちは、税法を調べるときに最低限読むべき2つのものを知っているか?」
といった趣旨の問いかけを未だに覚えています。
答えは「コンメンタール」「税務釈義」です。
コンメンタール法人税法Digital | 第一法規株式会社 (daiichihoki.co.jp)
会社税務釈義Digital | 税務・会計データベース DHC Premium (daiichihoki.co.jp)
この問いかけと、研修を通じた指導により、
「質疑応答事例集を読むだけでは駄目なんだな」
ということをしっかりと頭に焼き付けることができたように思っています。
短期間では身につきません
研修で調べる方法を知ることができますが、これを継続できるかは、その人の意識の持ち方次第なのではないかなと思っています。
このリサーチの仕方をキープするにあたって辛いことがあります。
膨大な税務に関する情報の中から、本当に必要な情報を、情報の信頼性を担保しつつ、ご提供することの大変さを理解していないクライアント(ネットで調べられる程度の情報と勘違いしている。)にあたってしまうと、「えっ、この情報でこんなにかかるの?」(時間もお金も)というリアクションを頂く。
ならば、時間をかけぬようにと、日々研鑽しておき、いざ、ご質問を受けた際に、すぐに答えが出せるようにしておくと、「簡単な質問だったんだ」と勘違いされる。
常に自分の知識と経験を疑ってかかる必要があり、辛い気持ちになる。
(「あぁ、これ随分前に調べたなぁ。確か答えはこれ。でも、本当にあっているのか?改正はないのかな?勘違いしていることはないのかな?論点の把握漏れはないかな?」と問いかけて、常に自分自身を疑う必要があるので、辛い。)
なので、多くの方が継続できないのではないかなと思っています。
また、これを継続するだけでは、税法の知識が虫食い状態になってしまうので(過去にリサーチした論点についてはある程度詳しくなれるが、そのほかはよく知らない)、別途、座学で学ぶ、専門書籍を頭から通しで読んでみるといったことをしないといけないという点も大変な点だなと思います。
図解シリーズも、税法六法も、私が税法を学び始めた頃に比べて、かなり厚さが増しました。
もともと複雑だった税法が、より一層複雑になったということなのですが、
「もはや、税法を本当に理解できている人なんてどこにもいないのではないか?」
という疑問を感じつつも、税法の海に溺れることのないように、必死にもがき続けようと思います。
溺れてしまいそうになっている人達を助けるのが、私の仕事であり、得意とすることです。
日々精進。