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【源泉所得税】不納付加算税が取り消された事例

源泉所得税のはなし

裁決事例

令和3年1月20日の裁決事例は、不納付加算税の賦課決定の適否について争われた事例です。

(令和3年1月20日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)

もろもろの事情を鑑みて、審査請求に理由があるとして、加算税が取り消されています。

コロナの関係もあったのでしょうか。調査官の対応がボロボロです。

事案の概要

裁決書(抄)による事案の概要は下記のとおりです。

  • 平成30年12月28日に請求人がGと土地の売買契約を締結し、手付金を支払う
  • 平成30年12月31日にGが香港へ出国
  • 平成31年1月21日にGに対して売買代金を決済し、所有権移転登記
  • 令和1年7月2日に調査担当者が税理士法人の担当者Jに源泉所得税の実施調査等の電話連絡
  • 令和1年7月5日に請求人が上記国内源泉所得にかかる源泉所得税を納付
  • 令和1年7月8日に税務代理権限証書を税務署に提出
  • 令和1年8月5日に不納付加算税の賦課決定処分(通知書に斜線が引かれていた)
  • 令和1年8月22日に誤納に係る還付金を不納付加算税に充当
  • 令和1年10月31日に審査請求
  • 令和1年12月5日付で賦課決定処分を取り消し、同額の賦課決定処分
  • 令和2年1月29日に審査請求

土地の売買の源泉は怖い

この、「実は売主が非居住者でした」問題って、税務訴訟になっていたりするのですが、源泉徴収者側の義務の範囲がかなり広い印象を持っています。

何かしらの書面をつぶさに見れば、

「非居住者に該当するってわかったでしょ。」

ということで納税者が敗訴していたりします。

今回の事例も、非居住者であることに気づくのは結構厳しい事案で、売買契約を締結して、すぐに出国してしまっています。

引き渡し後の送金先が、国外の銀行になっていたりしたら、気づくことができたのかもしれませんが、積極的に売主側から情報提供がないと気づけないと思います。

この事案の調査担当者の対応が気になりました

この事案の調査担当者の方、税務調査の経験があまりなかったのでしょうか。

基本的なことがかなり抜け落ちています。

まず、1点目。

税務調査の日程調整の段階で、調査の目的を言うなかれ。

この事案、令和1年6月頃、税務署内における調査で、この取引の源泉所得税の納付がないことを把握しています。

そして、令和1年7月2日に日程調整のために電話連絡をしているのですが、その際に、

「非居住者からの土地の取得があると思われるので確認させていただきたい。」

と伝えていたようです。

優しい調査官ですね。

「非居住者源泉で税務調査に行くから、待っててね。」

と伝えています。

当然ですが、この調査官の発言を受けて、税理士法人の担当者→法人の経理担当取締役に連絡が行き、社内で源泉所得税の漏れがあることを確認した後、源泉所得税の納付となっています。

2点目。

税務代理権限証書の依頼の仕方が、何かおかしなことになっています。

裁決書には、

「本件調査担当職員は、令和元年7月8日、本件担当者に対し、平成29年10月1日から平成30年9月30日までの事業年度の法人税等及び平成29年10月1日から平成30年9月30日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税等に係る税務代理権限証書の提出を依頼し」

とあります。

まず、源泉の調査なので、法人税の税務代理権限証書はいらんですね。

そして、源泉所得税の対象期間が

「平成29年10月1日から平成30年9月30日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税等」

とされています。

本件取引は平成31年ですので、期間が間違っています。

税務代理権限証書を形式的に取り扱うことが多いので、記載内容をまったくチェックしていなかったのか、そもそも、法人税の事業年度の記載と一致していなくても問題ないということを知らなかったのかのいずれかではないかと思われます。

そして、これについて、裁決書のなかで、

「本件調査担当職員は、本件納付後の同月8日、本件担当者に対し、本件源泉所得税等とは関係のない税務代理権限証書の提出を求め、その結果、本件源泉所得税等とは関係のない税務代理権限証書が提出されたにもかかわらず、本件調査担当職員が、その後も本件担当者等に対して、本件源泉所得税等に係る税務代理権限証書を提出するよう依頼したなどの事情もうかがわれない。」

とチクリと言われてしまっています。

そのほかににも、電話連絡の段階で、どの程度調査を進めていたのかの証明のために、調査報告書が提出されているようなのですが、

「原処分庁が提出した令和元年9月12日付調査報告書には、本件電話連絡をした際、本件調査担当職員が調査対象期間及び税目について平成30年11月12日から令和元年6月10日までの間に法定納期限が到来する源泉所得税等とすると伝えた旨が記載されている。しかしながら、当該調査報告書は、本件電話連絡のあった日から2か月以上も経過し、かつ、上記(1)ヌの当初賦課決定処分の再検討の申入れがされた後に作成されたものである。」

と言われてしまっています。

おそらく、ちゃんと適時に統括官の決裁を受けていなかったようですね。

準備調査の段階や、調査の途中、賦課決定処分の決議の段階など、

「この事案は揉めそうだぞ。証拠化しておかねば。」

と気づけるタイミングがいくらでもあったように思えるのですが、コロナ禍だったので、作成が遅れてしまったのでしょうか。

極めつけで、賦課決定処分通知書を、おそらくですが、自主納付扱いで作成して送達していたようです。

裁決に、

「当初審査請求の審理の過程で、当初賦課決定処分に係る通知書に斜線が引かれていたと請求人に主張され、当初賦課決定処分に瑕疵があるとされる余地があったことから、それを是正するために本件賦課決定処分をしたものであって」

とありましたので、不利益処分であることの記載の箇所か何かに斜線が引かれていたのではないかと思われます。
(決議ミスったな。)

ts244.pdf (nta.go.jp)

審判官も訟務官室もうんざりしていたのではないでしょうか

加算税って、

「仮に税務署から問い合わせなどを受けなかったとしても、納税者が自主的に気づいて納付に至っていましたか?」

という質問に対して、

「YES!!」

という状況にないと、賦課決定は適法となるという理解でいました。

なので、加算税が取り消されていた、この裁決事例がとても気になったわけですが、この事案、果たして、税務署から税務調査の日程調整の連絡を受けていなかったとして、本当に、この源泉所得税が納付されたかというと、それは実際は難しかったのではないかと思われます。

実際、裁決の争点2のロ検討の序盤までは、賦課決定は適法と判断するんだろうなぁ、という書きっぷりです。

ただ、日程調整の電話連絡やその前の税務署内の検討と、納税者による自主納付が関連付けられないということで、結論がひっくり返っています。
(調査担当者の対応などを考慮すると、納税者が自主的に気づいて納付したという認定とならざるを得ないということと理解しております。)

この事案、担当者が税務調査の経験があまりない方だったのか、それともただ単にとてもやさしい方だったのか、はたまた、統括官との相性がよくなく、コミュニケーションがうまくとれていなかったのかはわかりません。

裁決書(抄)にある情報だけで、ズタボロ感がかなり感じ取れたので、いろいろと大変な事案だったのだと思います。

この事案、審判官としても、訟務官室側だとしても、やっていて、なんなんだよこれ、、、、と思っていたのではないかなと思います。

仕事って大変ですね。

日々精進。


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