個人がSPCを作る場合が気になっています
SPCって、いろいろな場面で活用されています。
企業の買収のためであったり、個人資産を会社に持たせるためで合ったり(この場合はSPCとは言わないんですかね?)。
買収のためなど、法人が主体の時は全く気にならないのですが、個人が主体の場合にSPCを安易に利用しないほうがいいのではないかと思っています。
経常的なコストが忘れられがち
取引の検討の段階では、SPCを保有することにより経常的に生じるコストが、あまり意識されていないように感じています。
具体的には、法人税の確定申告のための税理士報酬です。
SPCを利用することによるベネフィットに比べると、税理士報酬は大した金額ではないとは思うのですが、とはいえ、毎年発生するので、長い目で見ると個人にとってはそれなりの負担になるのではないかと思います。
SPCを保有する個人が超富裕層であれば、気にならないレベルのコストかもしれませんが、会社の役員など、ある程度お金は持っているものの、超富裕層とは言えない頃合いの方々にとっては、無視することのできないコストであるように思います。
再編などが絡むと担い手がいなくなる
SPCは株式を持っているだけで、ほぼ動きなしといった状況であれば、SPCを専門にされている税理士さんなどが対応されるかもしれませんが、このSPCが合併などをしたり、みなし配当が生じたりすると、とたんに申告の担い手がいなくなってしまうように思います。
スキームを立案したアドバイザーの方から、
「適格再編だから普通の申告とそんなに変わりませんよ」
と言われたところで、申告を担当する税理士としては、自ら検討をして取引を理解し、適格再編であることに納得しない限り、恐ろしすぎて、申告書の作成をお請けすることはできないように思います。
検討するには当然工数が生じますが、組織再編税制の制度自体がかなり複雑で、思わぬところに落とし穴があったりするので、とても慎重に検討する必要があり、思っているよりも時間がかかってしまうことがほとんどです。
そして、その検討自体が後追いでの検討になるので、依頼をしてこられた方からすると、
「また同じような検討をしているな、、、」
と感じられるのではないかと思います。
スキームの立案にあたって、どのような検討が行われ、ボツになったスキームの内容とボツになった理由などがきれいにまとめられていれば、それをチェックすることで、検討に要する工数はかなり減るとは思いますが、そんな丁寧な対応をしていることは、まずないように思います(仮に検討メモがあっても共有してくれなさそうですし。)。
アドバイザーの「適格再編」という言葉に完全にのっかったとして、万万が一、非適格再編であると指摘を受けて追徴課税が生じてしまった場合に、このアドバイザーさんが責任を取られるのかというと、そうではないと思いますし、申告書の署名押印欄に署名押印をする意味を踏まえると、申告を担当する税理士の負担はとても大きいものだと思います。
また、依頼される方は税務の専門家ではないので、組織再編が行われたからといって、それがどれだけの検討の工数を生じさせるのかについてご理解いただくことが非常に難しいように思います。
「申告書の書面が増えるだけじゃないの?」
といった風にとられてしまいがちなので、工数とリスクに見合った報酬をご請求させていただくことは、なかなか難しいように思います。
大きな買い物をするときこそ、細かいコストにも気を配った方が良いと思います
家を買う時に、高い調度品がお手頃価格に思えたりするのと同じで、スキームを検討する際は、他の大きな金額に引っ張られて、その後に経常的に発生する、一つ一つで見るとそこまでは大きくないコストたちが忘れ去られてしまっているように思います。
M&Aの場面などでも、クライアントに
「地方税の金額が増えますよ」
と事前にお伝えしたとしても、買収価格の交渉に比べるとまったく重要ではないので、その時は全く気にされなかったのに、買収が完了した後になって、
「地方税の金額が増えて、それがずっと続くので困る。何か対応策はないか?」
といったことを言われたことが何度かありました。
監査法人在籍時に、単位がB(billion(十億円)の頭文字)で表記されたスキーム図などを見て、億単位の金額が小さく見えたという経験があり、気持ちとしてはわかるのですが、でもやはり、後で後悔しても、もう遅いので、
「細かいから、どうでもいいよ」
なんて思わずに、しっかりと対応されたほうがいいように思います。
日々精進。