「公認会計士による税務判例の分析と実務対応」
もう数年前になるのですが、公認会計士協会主催の講演を聞きに行った際に、会場の片隅で売られていた「公認会計士による税務判例の分析と実務対応」と、そのVol.2を購入しました。
税務判例の解説は、実務での調べものであったり、税大の研修などでたくさん読んでいるので、ある程度パターンが読めてしまい、ちょっと飽きてしまっているのですが、公認会計士が税務判例の分析という目新しさに惹かれて購入しました。
とはいえ、実務において、著名な税法学者の論文などを引用することはあっても、公認会計士の税務判例の分析を使う場面はないということもあり、いわゆる積読状態となってしまっていたのですが、じっくりと腰を据えて読んでみる時間が出来ましたので、読み始めてみたという状況です。
著者の経歴によって違います
税務判例の解説をいろいろと読んでいるとわかるのですが、著者の経歴によって、フォーカスする視点が大きく異なっています。
大学の教授が書かれているものは、諸外国の制度との比較など、大きな観点から、あるべき制度が提示される傾向にあるように思います。
制度導入の際の検討資料などを見ると、他の国の制度と実例からメリデメを把握して、日本においてはどのような制度が良いのかを議論して、紆余曲折を経て制度導入に至ったりしているので、制度導入の当時の議論をより深く理解するという点において、とても有用だなと思っています。
弁護士などの方が書かれているものは、純粋に法律の理論の観点から書かれている傾向にあるように感じています。
判例に書かれている個別事情は措いておいてといった風になっているので、おそらく同じ目線を持っているであろう裁判官も、こうやって事案を見ている(が見える)んだなという理解に役立ちます。
法律を解釈するにあたっては、そうあるべきなのかもしれませんが、なんか冷たい判断だなぁとも思ったりします。
税理士が書かれているものは、かなり実務寄りのものになっている傾向にあるように思います。
実務ではこのように取り扱われてきたし、他の似たような制度ではこのような通達があるので、こうあるべきだといった風の解説です。
あと、個別事情の箇所にも食いつきがちで、個人的にはこの解説が一番しっくりきます。
最後に会計士が書かれているものですが、個別事情にかなりフォーカスする傾向にあるなという印象です。
これは私の勝手な印象ですが、個別事情が重要な判定要素となる移転価格税制は会計士が好きな論点なように思います(あるべき価格(価値)はいくらなのかみたいな議論ですね)。
期待通り、違う観点からの解説となっていました
固定資産等の除却損・廃棄損は、実際に物理的に処分したときに損金算入できることを原則としつつも、有姿除却といって、将来において明らかに使用見込みがないのであれば、物理的に処分をしていなくても、税務上損金算入を認めますよという取り扱いがあるのですが、これに関する有名な判例があります。
この書籍で、この事案に関する解説がされていたのですが、期待通り、違う観点から解説をしてくれていました。
他の専門家の方々が、将来において明らかに使用見込みがなかったのか?という議論に注力している中で、電気事業会計規則と所轄官庁の解説の位置づけ(「公正処理基準」に該当するのか?)について、考察していました。
そのこころは、電気事業会計規則では電気事業固定資産の除却とは、
「既存の施設場所において資産として固有の用途を廃止すること」
となるのに対し、企業会計において通常用いられる意味での除却とは
「まだ使用に耐える固定資産について、将来にわたってその使用を廃止すること」
をいい
「その資産は事業に対する物的給付能力を失った」
ことを意味するという違いがあるとのことです。
前者の方が少しだけハードルが低そうですね。
そのため、電気事業会計規則と所轄官庁の解説の位置づけが、法人税法における「公正処理基準」に該当するか否かで、上記のいずれの定義にあてはめて、判断することとなるのかが決まってくるということのようでした。
違う観点から考えるっておもしろいですよね
「公正処理基準」に該当するかという議論ですが、かなりビックなテーマにチャレンジしたなと思います。
どうせ研究するなら、既知の議論ではなく、会計士の得意とする分野で議論ということだったのでしょうか。
IFRSが「公正処理基準」に該当するのか?という議論が、IFRSを採用している会社で起きたことがあるのですが、
「まぁ、壮大な議論なので、この議論は止めときましょう」
となりました(私もそのように当時思いました。)。
金子租税法ではこの点についてどのように書かれているのか気になったので少し調べてみたところ、IFRSが公正処理基準に該当するのかについての論文などの紹介に留まっていました。
この論点は会計絡みですが、あまりにも実務からかけ離れているので、読む気力が湧く気がしませんが、湧いたときには読んでみようと思います。
日々精進