日経新聞の記事
2020年7月3日の日本経済新聞朝刊で、
「監査法人 直らぬ機能不全」
という記事が掲載されていました。
昨今、問題となっている独オンライン決済サービスのワイヤーカードの破産事例を用いて、
「監査のモデル自体を考え直す時だ」
といったことが主張されていました。
記事内で引用されていた、
「ビック4の会計事務所は、さっさと確認を済ませて、すぐに問題なしと署名できるのがいい監査だと考えている。問題を発見したいなどとは思っていない。」
という箇所が非常に印象的でした。
当該引用に対して「半分賛成、半分異議あり」といった感じでしょうか。
確かに会計監査で不正などの問題にあたってしまうと、相当な大変な対応を本部から求められることになって、監査クライアントと本部との板挟みの状態で、監査意見を出すことのできる期限まで延々と、ほぼ寝る時間もなく対応し続けることになるので、そのような状況に陥りたくないという意味では、問題を発見したいとは思いません。
だからといって、さっさと確認を済ませて、すぐに問題なしと判断するのか?というと、そんなことはないと思います。
むしろ、問題が発見された際の社会的な影響を目の当たりにしているので、そのような事態を起こさぬよう、限られた時間と人的リソースでかなり真剣に取り組んでいたように思います。
監査手続きと記事に対する疑問
当該記事によるとシンガポールの銀行等にあるとされていた手許資金19億€(約2,300億円)が実在しておらず、監査の担当をしていたEYは、銀行に対し監査に必要な口座情報の開示を要請していなかったとされていますが、少し疑問があります。
規模が大きな会社であったとしても、2,300億円ともなると金額的な影響が大きいため、監査手続きを簡易に済ませるということはないと思いますし、日本の監査基準をベースに考えると、銀行に対し銀行確認状の送付(直接銀行に対して預金残高等を照会する監査手続き)を行うこととなります。
海外の監査手続きに明るい訳ではありませんが、大きな違いはないと思われます。
ところが当該記事では、銀行への情報開示の要請の代わりに、第三者の受託会社や監査先から提供された文書やスクリーンショットに基づいて監査を進めていたとありました。
なぜなんでしょうかね。経緯がわからないので、とても気になります。
ちなみに、監査法人に在籍していた際に、インドや中東諸国に進出している企業の会計監査を担当していたのですが、銀行確認状(英語)を当該国の銀行に送ったところで、1年たって返事があれば良い方で、基本的には返事が来ることはありませんでした。。
日本の親会社から当該国の子会社を通じて現地の銀行に連絡を取っていただくことで、返信の催促をして頂いたこともあるのですが、電話での催促であるからか、あまり効果はなかったように感じていました(日本の感覚で照会先のアクションを期待しても、がっかりするだけでした。)。
また、国によっては、公用語が英語ではないことがあり、アラビア語など、よほどのことがない限り日本では目にしない言語で書かれていることもありました。
もはや日本人には解読不能でして、どこからどこまでが一つの文字なのかわからないのと、どうやって文字を入力したらいいのかもわからないので、ネットで意味を検索することすらままならず、かなり往生したのを覚えています。
銀行の残高をチェックするというと簡単な作業のように感じるかもしれませんが、実際にやるとなると、距離的な問題、文化の違い、言語の違い、など様々な問題を乗り越える必要がありまして、こういった意味では(著者の主張する意味合いとは違うと思いますが)「監査のモデル自体を考え直す時」ではないかと思っています。