スーパーマンのような専門家
日本には公認会計士、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士、行政書士といった風にさまざまな士業があります(記載の順番に特に意味はありません。)。
会計士であれば、会計の事は何でも知っている、
税理士は税金に関することであればなんでも答えてくれる、
弁護士だったら法律の事は何でも知っている、
といった風に思ってしまいますが、実際は、それぞれの士業の中に専門分野がありまして、なんでも答えてくれるスーパーマンのような専門家はいないと思っています。
公認会計士の専門分野
たとえば、監査法人勤務の公認会計士について。
大手監査法人のHPなどでどのような部門があるのか見てみると、「監査事業本部」のなかに、
「東京事業部」(一般的な会計監査をしている事業部)
「金融事業部」
「米国監査基準グループ」
「パブリックセクター・ヘルスケア事業部」
といったさまざまな事業部がありました。
「東京事業部」に所属している会計士が、「金融事業部」において必要となる金融機関に関連する会計基準や監査手続きについて詳しいかというとそうではないと思いますし、「米国監査基準グループ」において必要となる米国会計基準や、「パブリックセクター」において必要となる公会計に詳しいわけではないと思います。
ちなみに、会計監査を行う際の必需品として会計監査六法(電話帳くらいの厚さがある会計基準がまとめられたもの)があるのですが、
これも、
「会計監査六法」
「金融会計監査六法」
「非営利法人会計監査六法」
「学校法人会計監査六法」
と専門分野ごとに分かれています。
弁護士の専門分野
弁護士にも専門分野があります。
大手法律事務所のサービスラインを見てみると、
「M&A」
「コーポレート・ガバナンス」
「ファイナンス」
「事業再生/倒産」
「競争法/独占禁止法」
「知的財産」
「労働法務」
といった様々なサービスラインがありました。
所属している弁護士の紹介ページがあることが一般的で、その方の専門分野を見てみるとわかると思いますが、複数のサービスラインに対応可能であっても、これらすべてをカバーしている弁護士はいらっしゃいません。
税理士の専門分野
もちろん、税理士にも専門分野があり、ざっくりと分けると、
「法人税」
「資産税(相続税)」
「国際税務」
「組織再編」
といった風に分けられ、やはりそれぞれを得意とする税理士がいらっしゃいます。
専門外の質問
公認会計士として働いていると、IFRSや学校法人会計など様々な会計に関する質問を受けます。
会計制度の大枠は理解しているので、書籍などを参考にして基本的な質問に回答することはできるのですが、
「じゃあ実務では実際のところどうなの?」
といった応用編の質問に対する回答は経験がなく難しいと感じています。
公会計については、パブリックセクターの繁忙期(だいたい上場3月決算の会計監査が終わった頃(5月半ば)くらいから6月末くらいまで)に応援業務で公会計の会計監査を経験したことがあるのですが、大枠から一般的な会計基準と大きく異なっており、実務を見たことはあるものの詳しくはわかりませんし、書籍を読んでも、会計の事が書いてあるにもかかわらず、まったく理解できませんでした。
(応援業務時に、担当する勘定科目が一般的な事業会社と同じものであったり、突合業務などの比較的簡単な業務であったからかもしれません。ちなみに収益の検討をするために、費用の証憑と突合するのですが、これがかなり混乱します。)
税務訴訟と弁護士
クライアントから
「税務調査を受けており、到底納得できない指摘内容なので税務訴訟をしようと考えている。お願いする弁護士として〇〇先生と△△先生を伝手でご紹介いただいたが、いずれの先生が良いと思うか?」
という質問を受けたことがあります。
当該先生方のご経歴をホームページなどで拝見すると著名な先生であることはわかるのですが、税務訴訟に関する言葉が一文字も出てこなかったりします。
私は弁護士ではないので、クリアにその境界が見えているわけではありませんが、公認会計士がIFRSの応用編の質問に回答するのが難しかったり、公会計のように大枠から大きく異なっており、理解することすら難しいということのように、弁護士にとっても税務訴訟はかなり特異な分野なのではないかと思っています。
書籍で調べたり、同業の知り合いから情報を得ることで一応の対応はできるのかもしれませんが、
「クライアントが本当に望んでいるようなプロフェッショナルとしてのサービスを提供することができるのか?」
というと、正直なところ疑問を感じます。
日々精進。