裁決事例
令和3年11月19日の裁決事例は、派遣会社などを通じて仕事を得ていた医師の収入が、給与所得と事業所得のいずれに該当するかが争われたものです。
(令和3年11月19日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)
各収入ごとに勤務状況などを整理した後、すべての収入が給与所得に該当するとして裁決されています。
(更正処分が適法と判断。)
給与所得に該当するか否かは、「時間的拘束を受けるか」といった定番の判定基準で判定されているのですが、この事例の特徴は、下記のとおり、訴訟において、労働法上は労働者ではないと認定されている点です。
労働契約上の地位の確認等を求める訴えを提起していたところ、Q地方裁判所は、平成○年○月○日、請求人の労働者性を肯認するには至らないとして請求人の請求を棄却する旨の判決(以下「本件判決」という。)をし、本件判決は確定した。そのため、請求人は、本件判決により請求人が事業所得者であることが確定したとして、上記更正の請求をしたものである。
労働法と税法
過去に、労働法を専門にしている弁護士さんと、税務上、給与所得とすべきか、事業所得とすべきかについて、両方の面から一緒になって検討をしたことがあります。
もともとは、労働法の関連の相談を受けていたようで、そこから、税務はどうなのよと派生したものだったと思われます。
クライアント向けに、税務上、どういった基準で、給与所得と事業所得を判断しているか説明をしたところ(定番の時間的拘束などです)、その弁護士さんがおっしゃったのが、
「労働法と同じ考え方をしているんですね。」
でした。
同じ基準を用いているのであれば、法律は違えど、同じ判断となるべきと思っていたのですが、別の事案では、法律が違えば、必ずしも一致するとは言えないという判断をされた弁護士さんもいらっしゃって、やっぱり税法って怖いな~と思ったのを覚えています。
税大の論文
さくっと、この点について書かれている物を探してみましたところ、税大の論文が出てきました。
源泉所得税における給与等の課税の取扱い (nta.go.jp)
「2 研究の概要」を読んでみたところ、下記のとおり、書かれていましたので、一致すべきという考えもありえるようです。
(3)所得税法上の給与所得者概念と労働基準法上の労働者概念の異同
所得税法上の給与所得者と労働基準法上の労働者では、法人役員等一部の者については取扱いが異なるものの、次の理由から「労働基準法上の労働者」に該当する者は、全て「所得税法上の給与所得者」に該当すると考える。
1 給与等該当性の要件とされる「雇傭契約」と労働基準法における「労働契約」は同一概念とされていること。
2 給与等該当性と労働基準法上の労働者性の判断は同一の判断基準で行われているといえること。
3 所得税法第28条が給与等として例示する「賃金」は、労働基準法の制定と同時期に行われた税制改正によって盛り込まれたものである。そのため、労働基準法第11条に定義する「賃金」と所得税法第28条の「賃金」は、同一の概念と考えられること。
したがって、所得税法上の給与等該当性の判断が困難な事例については、労働基準法の労働者性の司法判断等を参考にしてその解決を図ることも有効な手段の一つと考える。
ちなみに、この裁決では、下記のとおり、必ずしも一致するものではないと判断しています。
「当事者及び審理の対象を異にする」とありますが、単なる言い訳として書いているのか、本当に、考慮すべき事実なのかは、この裁決書(抄)からは、わかりません。
しかしながら、例えば、労務の提供等が使用者の指揮命令に服してされたものであるとはいい難い法人の役員が当該法人から受ける報酬及び賞与が給与所得に含まれるように、税法上における給与所得者と労働基準法上の労働者の判断は、関連する部分もあるが、完全に一致するというものではない。そして、本件と本件判決は、当事者及び審理の対象を異にするものであるから、本件判決の効力が本件に及ばないことは当然である。加えて、本件のような業務から得られる個々の収入の事業所得該当性は、各収入に係る経済的活動について、自己の計算と危険によってそれが行われているかを個別具体的に検討すべきものであるところ、上記ハのとおり、請求人が本件各医療法人等から請け負った業務は、いずれも自己の計算と危険において独立して営まれる業務とはいえない。
以上によれば、請求人の主張は採用することができない。
給与所得だと給与所得控除がある
この事案、事業所得に該当すると主張しているのですが、ほぼ勤務医のような状況ですので、事業所得に該当するとしても、そんなに経費ってないんじゃなかろうかと思っています。
あと、消費税の観点からも給与所得の方がお得なような気がします(レセプトをあげるのは委託元なので、非課税売上には該当しないだろうという読み)。
といったことなどから、給与所得として取り扱って、給与所得控除を受けた方が、お得な気もするのですが、結構稼がれていて、給与所得控除の威力が弱まっていたのでしょうか。
少し気になります。
監査非常勤を思い出した
私が少しだけ経験した監査非常勤は、給与所得扱いでした。
多くの外注が監査をしていると、協会向けにあまりよくないためとおっしゃっていましたが、個人的には、ちゃんと囲うためなのかなと思っていました。
この給与所得扱い、監査非常勤ではどちらかと言うと珍しいようで、事業所得扱いの方が多いのではないかと感じています。
時間的拘束を受けるかについては、監査法人は勤め人だったころですら、やることさえやれば、何時だろうが、どこだろうが問題なしという雰囲気だったので、時間的拘束を、あまり受けないのが一般的だと思われますが、唯一の道具であるPCについては、セキュリティの観点から、貸与PCしか使えませんということもあったりするので、給与と事業のどっちなんだろうと、いつも疑問に思っています。
個人的には、給与所得の方が、給与所得控除がありますし、消費税もかからないので、良かったのですが、案外そんな単純なものではないのかもしれないですね。
日々精進。