はじめての訴訟記録の閲覧
税務調査を担当していたころ、議論となっている取引の実態について、納税者の方が
「裁判で裁判所が認めたんだ」
とおっしゃられたことがありました。
判決文を確認してみたところ、判決文には取引の実態を認めた記載がなかったので、裁判所に行って、訴訟に関する資料を閲覧してみようと思い、判決文のコピー片手に裁判所を訪問したことがあります。
事前にインターネットで手続きを調べるなりしていけばよかったのですが、いつもの反面調査のごとく、特にアポなしで裁判所の担当部の書記官室へ行ったところ、いきなり税務署職員が来て少しびっくりしている書記官から、とても丁寧に閲覧の仕方を教えてもらうことができました。
午後に訪問したこともあって、残念ながら、すぐには閲覧ができない(数年前に終結した事案だと、準備に時間がかかるとのこと)とのことでしたので、いったん、帰署し、後日、収入印紙と三文判を持って、閲覧に行ったことがあります。
その経験があるためか、訴訟記録の閲覧にあまり拒否反応を示さずに、すっと行くことができます。
ひさびさの閲覧申請
その後は、税法に関する論文の作成にあたり、判例研究目的で閲覧に行ったっきりでした。
かろうじで、事件番号が必要であることや、収入印紙や三文判が、裁判所の地下のコンビニで購入できることは覚えていたのですが、閲覧謄写室の方々の、あの独特な雰囲気を忘れていて、びっくりおっかなだったのと、どこか懐かしい感じがしたので、少し書いてみようと思います。
まずは手続き案内
裁判所HPに記録の閲覧方法についての資料が掲載されています。
https://www.courts.go.jp/tokyo/vc-files/tokyo/file/20171117-eturan-tousya.pdf
資料を読むに、事前にご連絡を差し上げた方がよさそうですので、記載のある電話番号に電話をすると、閲覧謄写室につながります。
閲覧謄写室では数人の方が常駐してご対応されているのですが、閲覧申請書の補正対応などをされているので(という事実を昨日把握しました)、電話が鳴っていても、民間のコールセンターのようにすぐには応答していただけません。
なので、電話にすぐに応答していただけなくても、
「あぁ、お忙しいんですね」
という広い心を持って臨む必要があります。
電話がつながると、まず係争中の案件か否かが聞かれます。
一般的には判決が出た事案について閲覧をされるのではないかと思いますので、
「判決が出ている事案です!!」
と元気よく答えます。
次に、利害関係人なのか、第三者なのか聞かれます。
意外と迷うのですが、論文作成目的での裁判資料の閲覧の場合は第三者となります。
第三者である旨をお伝えすると、閲覧の範囲を聞かれます。
閲覧できるものの全体を知っているのであれば、
「準備書面と証拠説明書と証拠です」
みたいにすぱっと答えることができるのですが、そんな知識は持ち併せていないので、
「全部」
と答えています。
どうやらこの「全部」という回答は準備する側からすると、めんどくさい場合もあるようですので、その場合は、どのような資料を見たいのかを一生懸命伝えると、なんとかうまくいくと思います。
(民間企業に電話したときのように先方は親切に察しようとはしてくれませんので、電話を切られそうになっても必死に食らいつく必要があります。)
上記は電話で事前にやり取りをする場合ですが、午前中に直接行けば、うまくいけば午後から閲覧できる場合もあります。
裁判所の近くに事務所があるなど、立地に恵まれているのであれば、それでもいいと思いますが、遠方からいらっしゃる場合は事前に電話問い合わせしてからの方がいいように思います。
閲覧謄写室は裁判所の14階にあり、閲覧の申請書があるので、必要事項を記載します。
記入後の申請書面を入れる箱があるので、そこに申請書を入れて待ちます。
待機場所は廊下と決まっているようで、室内の隅っこの方で待っていたら、
「ここは職員が通る場所です。廊下で待っていてください。」
と、強い口調で言われてしまいました。
「廊下で待っていてください。」
だけであれば、素直に
「御意」
と思えたのですが、
「ここは職員が通る場所です。」
という一言、つまり、
「貴様のための場所ではない」(うがった見方ですかね)
という一言にかちんと来たのですが、ちゃんと、張り紙で、廊下で待つように指示されていましたので、
「さすが。裁判所さんはルールが徹底されているな。」
ということで合点がいったので、何も言わずに廊下で待つことにしました。
しばらくすると、係りの方から呼ばれますので、記入漏れの箇所などを追記しつつ、収入印紙を貼ると閲覧を開始することができます。
コロナの関係で飲食禁止なのかと思いきや、大切な訴訟資料が汚れるかもしれないため、飲食禁止とのことでした(夏場は暑いのでご注意ください)。
また、携帯の使用も不可となっています。
訴訟資料を真剣に読み込むにあたっては静かな方が良いですし、カメラでパシャリできちゃうと、第三者なのに訴訟記録の謄写ができることと実質同じになってしまうので、これは異論なしという感じです。
ただし、係りの方が、同じ裁判所職員の方といがみ合っていたり(「これはうちの部署の仕事って意味ですか!?」みたいなやりとりを大声でされています)、裁判所事情にあまり詳しくない方からの電話対応(係りの方の言い方がめちゃくちゃきついので、普通は電話口でキレるか、泣いちゃうかしてしまうのではないかと思うのですが、相手が裁判所なので、皆さん比較的おとなしめに感じます)の声がすさまじくて、集中がかなりの頻度で削がれるのですが、訴訟記録を読み始めると、案外気にならなくなります。
お昼時間の12時~13時は閲覧謄写室が閉じられるため、閲覧は午後も継続して行うことができるのですが、いったんは外で時間をつぶす必要があります。
地下に食堂やコンビニがありますので、そこで時間を潰すことが可能ですが、地下は電波が悪いので(ドコモ回線でインターネットが使用できないレベル感です)、ちょっとしたお買い物時に携帯を使った決済ができないことがあるのと、ネットが使えないと意外と時間を持て余すので、ご注意ください。
午後は1時きっかりに戻らないと、係りの人にめっちゃ怒られそうな雰囲気なので、皆さん、5分前くらいには閲覧謄写室前の廊下に戻られていたりします。
誰かが見張っているわけでもないのですが、余計なことで、怒らせたくないということなのかなと勝手に思っています。
ちなみに閲覧においては、メモ書きやPCへの打ち込みは可能です。
閲覧が終わると、閲覧物が全部返却されているかをご確認していただき、OKですと言われたら、部屋を出て良しとなります。
昔の法務局を思い出しました。
税務署に勤めていた頃、法務局に行って商業登記簿をとってきたりすることがありました。
一般の申請者の方と同じ窓口で申請などを行うのですが、お役所独特の雰囲気があり、かなりビビった記憶があります。
一般の申請者の方といっても、士業の方やその事務員の方などと思われ、場に慣れている感じがして、自分だけが浮いた感じがします。
そして、何したわけでもなく、いきなり怒られやしないかとビクビクした記憶があります。
その時に感じたものと、今回の閲覧謄写室の雰囲気が重なって、
「役所ってどこも同じような雰囲気があるんだなぁ」
と思いました。
昔は税務署も窓口で、たばこを吸いながら、相談対応をしていたらしく(私はその頃の経験はありません。灰皿の掃除はしたことはあります。)、昔は税務署も、裁判所や法務局のような雰囲気だったのかもしれません。
半数を超えるまで我慢
関根稔先生の著書「税理士のコーヒータイム 税理士のための百箇条 第4弾」に「半数を超えると社会が変わる」という題名の記事が書かれていました(記事なのか文章なのか、はたまた他の言葉なのか迷いましたが、記事にします。)。
その中に
「おそらく、組織の構成員の半数を新しい人たちが占めた段階で、その組織の文化が変わるのだと思う」(同著、32頁)
と書かれていました。
個人的な感覚ですが、国税の組織も新しい人たちの割合が増えてきたので、だんだんと変わってきたのではないかという印象を持っています。
上記の閲覧謄写室の方々も、半数が新しい人たちで占められた段階で、文化が変わるのかもしれません。
(過去数回の閲覧経験に基づくと、数人の方がかなり長い期間ご担当されているようですので、新たらしい人が入ってくるということは、相当稀な事象なのかもしれません。)
立場に関係なく、人当たり良くお仕事をされた方が、お互いにとって良いのではないかと思うのですが。
日々精進。