自己が製造した棚卸資産の取得価額
自己が製造した棚卸資産の取得価額については、法人税法施行令32条1項2号で下記の通り定められています。
(棚卸資産の取得価額)
第三十二条 第二十八条第一項(棚卸資産の評価の方法)又は第二十八条の二第一項(棚卸資産の特別な評価の方法)の規定による棚卸資産の評価額の計算の基礎となる棚卸資産の取得価額は、別段の定めがあるものを除き、次の各号に掲げる資産の区分に応じ当該各号に定める金額とする。二 自己の製造、採掘、採取、栽培、養殖その他これらに準ずる行為(以下この項及び次項において「製造等」という。)に係る棚卸資産 次に掲げる金額の合計額
イ 当該資産の製造等のために要した原材料費、労務費及び経費の額
ロ 当該資産を消費し、又は販売の用に供するために直接要した費用の額
端的に言うと、原価計算した金額を取得価額にしてくださいといっています。
直接費と間接費の議論
会計では直接費と間接費の議論があるのですが、税法の条文や通達を見ても、この論点が見当たりませんでした。
先に書いた法人税法施行令32条1項2号も「原材料費、労務費及び経費の額」と書かれているのみで、「直接」「間接」といった表現はされていません。
これについては、下記のとおりとのことでした。
(勉強になりました。)
製造原価の計算に関しては、製造等のため、又は製造等に付随して要した費用が原価性を有するかどうか、原価性を有するものが直接材料費、直接労務費、直接経費又は製造間接費のいずれかに属するかというような問題があるが、税務上はこれらを規制する一般的な基準はなく、適正な原価計算の基準に基づいて判定するという立場を採っているので、考え方において企業会計と税法との間に基本的な差異はない。
(「法人税法 平成29年度版」渡辺淑夫著。中央経済社。307頁。)
間接費の配賦は原則必要
原価計算基準では、製造に関する費用を「直接費」と「間接費」に分けて、それぞれを製造した物に配賦してください、とされています。
先に、書いた情報に沿うと、原価計算=税務ということとなりますので、税法においても、直接費のみではなく、間接費も製造した物に振り分ける必要があるということとなります。
とはいえ、それを小規模な会社も含めて、一律に求めることは実務に即さないということもあり、下記の通達で、間接費については仕掛品などへの配賦をしなくても良いとされています。
(製造間接費の製造原価への配賦)
5-1-5 法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品又は仕掛品に配賦することが困難である場合には、その製造間接費を半製品及び仕掛品の製造原価に配賦しないで製品の製造原価だけに配賦することができる。
この通達により、税務署の一般部門が所掌しているような小規模な会社では、一般的には、この間接費の配賦についての指摘が入ることがないのだと理解しています。
反対に、ある程度の規模の組織になってきたら、原則通りの対応が求められるということとなります。
どのくらいの規模から求められるのか?
この通達にある「小規模」っていったいどのくらいの規模を言うのだろうか?と疑問に思い、調べてみたのですが、特に決まったルールはないようです。
(通達の逐条解説や専門書籍を確認してみたのですが、特に触れているものは見つかりませんでした。)
「法人税基本通達の疑問点」と言う書籍があり、その中で、この通達について書かれていたと記憶しておりまして、たしか、この通達の運用をもうちょっと広く認めるべきだ、といったことが書いてあったように思います。
この考え方についてですが、大学のゼミなどで議論する場合に引用するのは良いとして、実務では、逐条解説くらいまでが引用の限界かなと言う印象がありますので、この書籍の意見に依拠して、間接費を配賦しない実務を行うというのは少し危ない印象を持っています。
(手許にこの書籍がなく、具体的な内容を確認できておりません。面目ない。)
で、
「どのくらいの規模から、間接費について指摘が入るのか?」
についてですが、調査部所管(資本金1億円以上)になったら、必須の指摘事項だと個人的に思っています。
「税務署の特官部門の所掌だった場合は?」
という点については、特官部門の職員に調査部経験者がいる場合は、おそらく同じ感覚で税務調査をしていると思いますので、指摘事項になるのだと思います。
税務署の特官部門が所掌しているくらいの規模の法人になると、「法人の事業の規模が小規模である等のため製造間接費を製品、半製品又は仕掛品に配賦することが困難」というには、ちょっと厳しいかなという印象を個人的には持っておりまして、運用としても、妥当ではないかなと思っております。
間接費の配賦って実際にやろうとすると難しい
監査法人にいた頃から、間接費の取り扱いって、会計理論的にも、実務感覚的にも難しいなと思っています。
これだ!!と言えるような絶対的な解がなく、どう計算しても、どこかの数値が歪む現象が起きてしまうためです。
とはいえ、原則は間接費も配賦ですので、規模が大きくなってきている会社のご担当者様、ご注意ください。
日々精進。