簿記3級で本当に十分?
法人税法では、別段の定めがあるもの以外は、
「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」(法人税法22条)
とされています。
税法に別段の定めがないものについては、会計の取り扱いで税務上の取り扱いを判断することとなるという風に考えているので、
「会計を学ぶことも国税職員にとって必要なのではないか?」
と個人的には思っているのですが、国税内部ではこのような意見を持っている方はあまりいないように思います。
国税在籍時に、同じ部門の上席国税調査官に、
「税法も、税務調査のやり方も、会計も知っていれば調査官として、とても優秀だと思うんですが、なんでそのような方っていないですかね?」
と聞いたことがあるのですが、
「そんな気持ち悪い奴いるわけねーよ」
と言われてしまいました。
これ以外にも、先輩や上司に同様の質問をしたことがあるのですが、
「簿記3級の知識があれば税務調査はできる。」
といった感じの回答ばかりでした。
理由はわかりませんが、会計は国税職員から毛嫌いされているようです。
税法と会計の解説
法人税法や通達に詳細な規定がない取引の取り扱いについて、会計基準では詳細な取り扱いが定められていることがあります。
その場合には、実務的には会計の取り扱いをそのまま税務においても採用することが一般的だと思っています。
また、通達に規定があったとしても、その規定の解説を確認してみると、その解説内容が会計基準(結論の背景や実務上の取り扱い)と同様の内容となっているものがあります。
通達を発遣している国税庁は、
「会計基準も意識しているのではないか?」
と個人的には思っています。
(ちなみに税務と会計の前後関係は検討したことがありませんのであしからず。)
2つのセミナー
平成30年度税制改正では、会計の収益認識基準の導入に伴って、法人税法22条が改正されました。
税制改正を解説するセミナーに出席したのですが(スピーカーが国税OBのものと、会計士のものをそれぞれ1つずつ)、収益認識基準の導入に伴って新たに制定された通達について、国税OBは法文解釈のような読み方(文理解釈)をされており、会計士は会計基準のような読み方(趣旨解釈)をされており、結論が正反対の解説をされていました。
当該通達のベースは収益認識基準ですので、会計士の解説に個人的には同意なのですが、おそらく世の中的には国税OBの解説の方が税に関する解釈として尊重されるように思われますので、こうやって会計と税務は乖離していくんだなぁと思いました。
最近の傾向
感覚的なものですが、これまでは、新たな取引が生まれ、税務上の取扱いが不明確な段階においては、経済的実質で判断し、過去において経済的実質が同様の取引があればその税務上の取り扱いをあてはめるという考え方で取り扱いが一義的に定められていたのではないかと思っています。
そして、その後に税務訴訟になったときに法的な観点から取り扱いが決まっていたように思っていたのですが、昨今はそのようなことはなく、一義的な判定の段階から法的な観点から取り扱いを定める傾向にあるように感じています。
(もしかしたら、昔からそうだったのかもしれませんが。)
この傾向が進めば、国税職員が会計を学ぶインセンティブがますます低くなるように思われまして、税務の取り扱いを判断するにおいて、会計の考え方も重要なものと考えている身としては少し寂しく思う次第です。
日々精進。