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【税務調査】税務調査を担当すると若いうちから判断する機会が与えられる

お仕事のはなし

まずは小さな意思決定から

20代前半の頃から国税調査官として、中小企業の税務調査を担当していました。

国税組織全体としてみると、非常に小さなことだとは思うのですが、自分でその場で意思決定する裁量がある程度あったので、自分で判断をする機会に恵まれており、とても良い経験をさせていただいたと思っています。

これについて、少し書いてみようと思います。

税務調査の進め方などは基本的に自分で判断します

税務調査を担当する部門に配属になると、まず初めに統括官や上席調査官の税務調査に数件同行して、税務調査の進め方を経験します。

その後は基本的には一人で税務調査を行うことになるのですが、上司のそばに、ぽつんと座って税務調査を経験するのと、自分だけで進めるというのには大きな違いあります。

税務調査を進めるにあたっては、どの科目を、どのような観点で、どの範囲を調査するかを判断する必要があるのですが、これが、税務調査の経験があまりないうちはとても難しく感じます。

「時間が許すのであれば全部チェックしたい」

と考えてしまうのですが、実際にはそうもいかないので、

「えいやっ」

と範囲を決めて、税務調査を進めます。

帰り道などで、

「あの科目をもうちょっと詳細に見ておいた方がよかったのかな?」

なんて考えたりしていました。

 

「いっそのこと、かなり細かく見てみればいいじゃないか」

と考えて、結構な分量の証憑突合をしてみたり、賃借料などのあまりチェックする意味のない勘定科目もチェックしてみたりしたこともあります。

その結果だけ見ると、ほとんどが無駄に終わってしまったのですが、この小さな意思決定の失敗の積み重ねで、見るべき科目と見る必要のない科目の判断ができるようになりました。

ある程度の経験を積んで、自分で自信をもって判断ができるようになっても、

「本当にこの判断は正しかったのだろうか?」

という悩みがなくなるわけではないのですが、自分で判断をするという経験を重ねていくうちに、
「間違いを全部見つけることが重要なのではなく、インパクトが大きい間違いを見逃さないことが重要なのだ」

と気づくことができます。

判断にあたっての割り切りの重要さを理解することができる、ということかもしれません。

一人で全部判断できるわけではありません

税務調査の大きな方針(より深堀りするのか、手じまいにするのかなど)は統括官に復命して判断を仰ぎますので、なんでも、かんでも自分で判断できるということではありません。

自分で判断しても良い事項なのか、上司に判断を仰ぐべき事項なのか、について考えることも判断の一つです。

初めのうちは頃合いがわかりませんので、細かなことも一生懸命に伝えようとしてしまいがちですが、報告を受けた上司のリアクションを見ることで、

「この報告はあまり重要なことではなく、自分で判断してもいいんだな」

といった具合に、だんだんとわかってきます。

会計監査ではルールが厳密に決まっています

税務調査の進め方には割と裁量がありますが、会計監査における裁量は(特にスタッフには)、ほぼありません。

検討する勘定科目は、残高の大きさや勘定科目の内容で決まりますし、残高の大小の判断も重要性の基準値を基に判断します。この基準値の算定も数式化されています。

検討する際のサンプル数も(たしか、)統計学に基づいており、サンプルの抽出も専用のツールを使って行います。

税務調査を経験してから、会計監査を経験しましたので、最初はこの進め方に驚きましたが、個々人の経験値や能力に監査の品質が左右されないという点においては、この進め方には合理性があるように思うようになりました。

ただ、これから仕事を覚えていくスタッフにとっては、機械的に業務をこなすこととなってしまいますので、少し残念なことなようにも思っています。

人づてで聞いただけですが、スタッフに対して

「考えるな。マニュアルに沿って手続きをしなさい。」

と言っている法人もあるらしく、アサインされるチームによっては、もっと裁量が与えられていないこともあるようです。

(人づてですので、当時の状況などはわかりませんが、長い目で見ると、マイナスな指導なように思います。)

でも、報告するときは自分の考えを必ず求められました

監査手続きとしては、裁量の余地はほぼないのですが、監査法人で、何かを主任(主査)に報告するときは、報告するだけではだめで、

「それで、どういう風にすると良いと考えたの?」

といった風に、自分の考えを必ず求められました。

国税では、判断を仰ぐ際は、基本的には、上は下の意見を求めておらず、いかに正確かつ的確に情報を伝えるかが求められます。

自分の考えを伝えようとしても、ほぼ聞いてもらえないか、

「君の考えは必要としていない」

と、ぴしゃっと言い切られてしまうような状況だったと記憶しています。

ある程度の規模感の組織になってくると、効率的に組織を運営するにあたっては、良いやり方なのかもしれません。

このような仕事の進め方に慣れていたので、監査法人で主任に報告した際に、自分の考えを求められるのには非常に驚きました(しかも実際に真剣に意見を取り扱ってくれる)。

慣れるまでは、報告に行く前に一呼吸おかないと、自分の考えをもたないまま、報告してしまい、

「自分で考えてから相談に来ようか、、」

と叱られるようなこともありました。

自分で判断することから逃げ続ける

人によっては、自分で判断することを異常に避けたがる人もいらっしゃいます。

過去に判断を失敗した経験があって嫌になったのか、そもそもそのような経験がないので出来ないと思っているのか、責任を取るという行為が嫌なのかはわかりません。

こちらとしては、判断をさせても大丈夫か否かを事前に判断したうえで、判断をしてみてほしい思って話しているのですが、受け手としては、単に私が判断することを避けているように感じられる場合もあるようで、なんだかなぁ、と思うことが結構あります。

独立後はすべて自分で判断する必要があります

独立した後は、上司や同僚はいませんので、全部自分で判断する必要があります。

特に税務関係はもろに金銭のインパクトが生じますので、正直に言うと、怖いと感じることもあります。

ただ、クライアントとしては、プロの判断を知りたいと思われていると考えていますので、

「税務の観点からは」

という枕詞を置きますが、自分で判断をして、考えられる案のうち、いずれがベストと思うかなどの自分の考えをお伝えするようにしています。

現在、このように自分で自信をもって判断することが出来ているのは、20代前半の若手調査官を一人で税務調査に行かせ、どのように税務調査を進めるかは自分で判断させる、という判断をしてくださった上司がいるからであり、とても感謝しています。

組織によっては、役職において下の方が判断しようとすることを嫌がる上司がいる場合もありますが、そこは柔軟に、様子を見つつ、やっていくほかないのかなと思っています。

日々精進。


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