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【法人税】貸倒損失の税務上の論点いろいろ

法人税のはなし

貸倒損失を損金算入できる場面

貸倒損失を損金算入できる場面は、下記の通りとされています。
(法人税基本通達9-6-1~3)

  1. 金銭債権が切り捨てられた場合(法的な手続きによる切捨てや債務免除)
  2. 金銭債権の全額が回収不能となった場合
  3. 一定期間取引停止後弁済がない場合等
No.5320 貸倒損失として処理できる場合|国税庁

貸倒損失で利益調整?

上記1の債務免除を根拠に貸倒損失を損金算入して、

「当期利益が出ていたので債権放棄して損金算入したが、何が問題なんだ?」

「通達には債権放棄をすべきタイミングについて書いていないから自由にタイミングを操作しても問題ないはずだ。」

と、税務調査に同行した際に、立ち合っている税理士さんがおっしゃっていたのを思い出しました。

私は同行しているだけでしたので、積極的に議論には加わりませんでしたが、

「よく利益調整をしたなんて堂々と言えるなぁ、、」

と思ったのを覚えています。

ちなみに、法人税法通達9-6-2(上記2)については、「明らかになった事業年度において」とされていますし、書籍等においても、恣意的な操作は認められないと解説されています。(「法人税基本通達逐条解説 九改訂版」佐藤友一郎著。969頁)

どうせ返戻されるから送っていない

ほかの同行事案で、債権放棄の通知書を見せてくださいと依頼したところ、

「どうせ、返戻になるんだから、郵便費用がもったいないから債権放棄の通知は行っていない」

と、立ち会っている税理士さんに言われたことがあります。

当時は、

「まぁ、わからんでもないなぁ~」

なんて思っていたのですが、私が国税を退職した後の裁決事例(平成27年10月2日裁決(非公開))において、内容証明郵便を送ったものの返戻となった場合は、債務者に通知が到達しておらず、法律上債権が消滅していないということで、損金算入が認められなかったという事例を見つけました。
(「二改訂版 貸倒損失・債権譲渡の税務処理早わかり」中村慈美著。34頁~36頁)

この事案が当時あったとして、これを基に説明しても、

「そんなアカデミックな議論をしているんじゃない!!」

といった感じで、もめそうな気がします。

備忘価額を付さないで貸倒処理

上記3を根拠にして貸倒損失を損金算入する場合は、

「備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理したときは、これを認める」

とされていることから、備忘価額(一般的には1円)を付して貸倒処理をするのですが、これを失念して貸倒処理している税理士を見たことがあります。

これで全額否認って、

「結構酷だなぁ~」

なんて思ったりもするのですが、専門書籍を調べてみると、

「全額が損金不算入とされるのではないかと考えます」

と、歯切れがあまりよくないものの、認められない旨の解説がされていました。

実際に全額否認されている事案があれば、

「あまりに形式的な判断だ!!」

みたいな感じになって争いになっていそうですが、これについて争われた事案は見当たりませんでした。

税務調査で指摘を受けるので自己否認か、貸倒損失を計上しない

調べる側にいた時はわからなかったのですが、税理士になってから、貸倒損失を計上して損金算入することの心理的なハードルの高さを知ることができました。

債務者の資力の確認だったり、手続き的な要件であったりと結構大変だなと思っています。

そして、金額も多額になりがちで、PL上でも、とても目立つので、

「きっと税務調査の対象になっちゃうんだろうなぁ」

なんて思ったりします。

そういうこともあってか、会計監査を受けている会社は、引当処理もしくは損失処理を会計上しつつも、税務上は別表加算して自己否認したり(会計の方が税務よりタイミングが早いのは承知しております。)、会計監査を受けていない会社は、貸倒処理をしないでそのまま資産計上を続けるということがわりとあるように感じています。

また、損金算入の可否についてトピックとなった事業年度においては詳細に検討したものの、その後の事業年度では、そのまま放置されて、別表5(1)に自己否認額が残ったままになっていたり、当時の担当者がすでに退職してしまっていて、誰も同時の状況がわからないといった状況になってしまうこともあるように思っています。

税理士が変わって、積極的に落とした時の理由付け

このような状況が続いていたとしても、税理士が変わったタイミングなどで申告内容の見直しをして、過去に否認している(もしくはBSに残していた)債権の貸し倒れを損金算入しましょうということもあるように思います。

おそらくですが、先の件は、このタイミングで税務調査に入ったのだと思います。

「税務顧問を引き継いだ際に、申告内容の見直しをかけ、滞留債権の見直しを行い、実際に回収活動を行った結果として、回収可能性がないと判断して、債権放棄を行った」

であったり、

「全額が回収できないことが明らかになったので、損金算入した」

という説明であれば、違ったんじゃないかなとも思うのですが、なんで、正面切って、「当期利益が出ていたので」なんておっしゃったのでしょうか。気になります。

立証責任は納税者にあるというけれど

取引の経緯などを質問して、通達にある要件を満たしているか検討したあとに、

「私の方でこの債務者を探してみるので、見つかったら、貸倒損失を否認しますね」

という対応をしたことがあります。

今思えば、仮に見つかったとしても、納税者に債務者の所在などを伝えることができないように思うのですが、この時は、

「納税者がどれだけ本気で探したのか、税務署だからできること(債務者の申告書の閲覧や預金口座の動きの有無の確認など)で、案外簡単に発見できるんじゃないか?」

との思いでやってみました。

いろいろ探した結果、見つかりませんでした。

もちろん確定申告はしておらず、請求書等にあった住所にはまったく関係ない法人が入居しており、預金口座の動きなども見ましたが、特に動きはなしといった状況でした。

納税者としても、命の次に大切なお金が回収できていないわけですから、それなりのことはしているわけですよね。

簿外で回収しているかもしれない

調査官が貸倒損失をチェックするのは、金額的に目立つし、税務目的で利用されることがあるからということもあるとは思うのですが、実は簿外で回収していたなんてこともありました。

これは私が担当した事案ではないので、どうやってその事実を把握したのかなど詳細には存じないのですが、簿外で回収していた事実やその経緯について書かれている書面が、税務調査の決議書(稟議書のようなものです)に挟まれており、そういったこともあるんだなと気づかされたことがあります。

消費税率誤り

貸倒債権にかかる消費税は、貸倒処理した際に納税額から控除することができるのですが、だいぶ前に発生した債権にもかかわらず、直近の消費税率で控除額を計算してしまっているという事案を見たことがあります。

いつ発生した債権だったのかを調べるのが面倒だったのか、単なるミスなのかはわかりません。

リアクションでわかるのではないか

事業を行っていて、それなりの金額が回収できていないとなると、相当なストレスだと思われ、その思い出したくもないであろう事実を、数年後に税務調査で調査官から根掘り葉掘り聞かれることとなるので、怒り出す納税者の方もいらっしゃいました。

なので、そこまで怒った雰囲気になられない方の場合、

「実は回収できているんじゃないのかな?」

なんて穿った見方をしたりしたこともあるのですが、リアクションで、嘘か本当かはわからないな、というのが実際のところではないかと思っています。

こうやって書いてみると貸倒損失って税務の論点てんこ盛りですね。

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