デューデリ費用の税務上の取り扱い
税務通信(3709号)で、M&Aで生じるデューデリ費用の取り扱いについての記事がありました。
会社を買収する際に、その会社の決算書の内容は正しいのか、収益性はあるのか、法的な問題を抱えていないのかといったことを、企業を買収するに当たって、会計士・税理士・弁護士などの専門家に依頼して、それらの調査を行うことをデューデリジェンス(以下、「DD」と表記します)というのですが、そのコストを株式の取得価額に含める必要があるのか否かという論点です。
専門家に依頼して、非常に短期間で、たくさんの工数をこなす必要があり、かつ、内容もかなり専門的であるがゆえに、それなりの金額になるということと、株式の取得価額に含めると、株式を譲渡するまで費用にならない(基本的にはずっと保有することが前提であるため、費用化のタイミングは来ない)ということで、税務調査のトピックになりやすいのではないかと思っています。
取締役会での決議で判定
DD費用を株式の取得価額に含めるか否かは、取締役会等における買収先の決定の意思決定のタイミングで判断ということで、これまでは専門誌などで説明されていたのですが、必ずしもそうとは言えないらしいということでした。
詳細は記事をご覧いただくとして、
「そもそも、この判定ってそんなにきっかりとルールが決まっていましたっけ?」
と疑問に感じました。
実務をされている側からすると、ルールが明確になっている方が良いというのは気持ちとしてわかりますし、私もそのように思うのですが、税法にも通達にも書いていないルール(本件の詳細は存じませんが、国税内部でこのように取り扱いましょうとなっていたルールだったのでしょうか?)に乗っかるのって、シンプルではありますが、「なんか危ないなぁ」という印象を持っています。
特に事実認定ものについては、そのように思います。
税務行政を執行する側として、納税額を減らそうなどとは決して考えないピュアな納税者だけを意識すれば良いのであれば、ルールを明確にして、
「このルールの通りに処理していれば、否認しませんよ~」
とアナウンスすれば、それで済むと思うのですが、実際は、ルールの趣旨などを無視して、いいとこ取りをしようとする納税者もいるわけです。
かなり大きな会社になると、簡単には取締役会の日程や決議事項をいじれないと思われますが、世の中のほとんどの会社においては、取締役会の日程や決議事項の調整が可能だと思いますし、定時役会で決議する必要は必ずしもなく、臨時役会を開催して、そこで決議することも可能なのではないかと思います。
このような納税者側で調整可能な要素のみに基づいて、国税が税務上の取扱いを判断するとは、到底思えないわけで、純粋に迷われている経理部の方など向けのシンプルな解説が、独り歩きしてしまったように感じています。
念のためですが、取締役は株主から経営を委任されていて、その経営の意思決定機関として取締役会がある云々、といった議論は、本件においてはあまり有益ではないと思っていますので、考慮していません。
ご回答差し上げる際はできる限りシンプルにしていますが、同時にある程度、正確性を欠くこととなります
税理士をしていると、このようなルールが明確になっていない事項についての意見を求められることが多いのですが、
「とても複雑な論点で、白黒はっきりしないですよ。」
とお伝えしたところで、クライアントからは、
「で、答えは?」
といった風に答えを求められることとなりがちですので、複雑な論点であることはお伝えしたうえで、
「お聞きした限りですが、○○だと考えます」
と自分の意見を言うようにしています。
そうすると、クライアントからすると、どのような要素に基づいてそのような判断となったのか(特にクライアントにとって望ましくない回答の場合)、と疑問に思われることが多く、その判断過程を聞きたいということで更問が続きます。
この判断過程をお伝えする際に、出来るだけ簡略的にお伝えするようにしているのですが、それがいつの間にか、独り歩きをしてしまうことがあるように思っています。
そんなに機械的ではないと思います
税務や会計がお仕事のメインではない方にとっては、議論の内容などを深くご理解いただく必要まではないと考えていますので、ざっくり理解でいいのではないかと思いますが、税務や会計をメインにされている方が、「取締役会の決議の前後で判断するんだ」と、とりあえずの結論の部分のみで理解してしまっているのであれば、不安だなと思います。
事実認定なので、「事案によりけり」というのが、実際のところだと思うのですが、まるで調査官がルールに沿って機械的に判断しているかのように思われてしまっているのではないかと、この記事を読んで、少し不安に感じましたので、少し書いてみました。
事実認定をするにあたって、起こりうる事象をすべて考慮してルールを定めるなど到底無理であることは感覚的にわかるのではないかと思うのですが、なんで、税務調査の事実認定が機械的に行われていると思われるのか非常に気になります。
日々精進。