税法決算から会社法決算へ
先日、とある会社の税法決算から会社法決算への変更のお手伝いをしました。
IPO支援をしていた時に、課題調査と期首残高調査を行うのですが、その中で対応していたことをそのままやればいいので、勘所はあるのですが、改めて会計基準を読んでみるのもいいなと思い、次は、退職給付引当金を少し復習をしてみました。
退職給付引当金ってなに?
ざっくり説明ですが、退職金規程などがあり、従業員に対して退職金を支払うこととなっている場合に、その退職金に見合う金額を引き当てるものを退職給付引当金といいます。
金額の計算方法は原則法と簡便法があるのですが、従業員数が300人未満の企業については簡便法が認められていますので、上場企業であっても簡便法で処理しているケースが結構あります。
原則法の場合は、アクチュアリーに算定を依頼するのが一般的なのではないかと勝手に思っているのですが、中には専用のソフトを使って自社で計算している事例もあるようです。
(めっちゃ複雑なので、大変じゃなかろうかと思います。)
「退職給与引当金」じゃないですよ
私は税務がファーストキャリアですので、「退職給与引当金」の方がぱっと見では、しっくりきます。
私が税務大学校で研修を受けていた頃くらいに、税務上損金算入を認めていた各種引当金が認められなくなったのですが、退職給与引当金については、10年間かけて取り崩して益金算入することとされていましたので、取り崩しの調整を見たことがあるためです。
法人税関係法令の改正のあらまし(課税ベースの見直し)平成14年8月|国税庁 (nta.go.jp)
なので、たまに、「退職給付引当金」だったか「退職給与引当金」だったか迷うことがあります。
連結財務諸表になると名前が変わる
単体の財務諸表では「退職給付引当金」と表示する(ことができる)のですが、連結財務諸表では「退職給付に係る負債」と表示します。
単に名称が変わるだけかというと、そうではなく、原則法を採用している場合は、未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用の取り扱いが生じるため、詳細な解説は割愛しますが、単体の財務諸表と連結財務諸表とで計上金額が異なることとなるようです。(退職給付に関する会計基準74項)
「未認識数理計算上の差異」や「未認識過去勤務費用」といった用語は、いざ、原則法を採用するぞ、というときに勉強をされることでいいのではないかと思います。
(私も詳細は忘れました。)
実務的には簡便法を採用している会社も結構ありますので、連結財務諸表作成時の組替処理で、えいやっと科目を組み替えるだけでコンプリートだったと記憶しています。
(ちがったらごめんなさい。)
退職給付債務の算定はどうするのか(簡便法のみ)
小規模企業等における簡便な方法として、「期末の退職給付の要支給額を用いた見積もり計算を行う等の簡便な方法を用いて」計算することが認められています。(退職給付に関する会計基準26項)
企業年金制度なのか、退職一時金制度なのかで、それぞれについて簡便な方法の例示がされているのですが(退職給付に関する会計基準の適用指針50項)、退職一時金(退職したときに、全額払いますという制度)の方をよく見ますので、そちらについて書きます。
(というか、簡便法を採用する会社で企業年金制度というパターンをお目にかかったことがなく。)
簡便法で一時金制度の場合は、「退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法」が一般的だと思います。
期末時点で、すべての従業員が自己都合で辞めた場合に、いくらの退職金を支払う必要があるのか?を計算するということです。
会社都合ではありませんのでご注意ください。
中小企業退職共済掛金はどうするのか
中小企業の場合は、中退共に加入して掛金を拠出している場合があるのですが、その場合は、これを加味して退職給付会計を行う必要があります。
よくわかる中退共制度 詳細版 2022.03~ (taisyokukin.go.jp)
まず、厳密な説明をすると、中退共は確定拠出制度(ざっくりいうと、掛金を拠出すれば、それ以降は、会社に追加的な負担が生じない制度)に該当するので、拠出額を費用処理することとなります。
退職金制度が中退共のみであれば、これで完結なのですが、退職金制度の内訳として中退共を利用している場合は、中退共の対象となる退職給付債務と、それ以外の退職給付債務を分けて計算することとなるようです。
(これがよくわからないんですよね。どうやって分けるんですかね。)
が、実務でそこまでしっかりとやっているかというと、そうとも言い切れず、期末時点の自己都合要支給額を算定して、中退共の退職金試算額(中退共に請求した場合に支払われることとなる退職金の額)を差し引いて退職給付債務を計算するといった簡易な方法で、えいやっと計算している事例もあるのではないかとも思います。
厳密バージョンと私がやっている簡易バージョンでどれくらいの違いが出るのかの勘所がないのですが、いつか、対応する必要が生じたら、検証してみようと思います。
退職金の支給のために保険に加入している場合
退職金の支給に備えて保険に加入している場合もありますが、この場合は、中退共の取扱いとは違い、退職給付引当金の計算上は考慮されません。
退職給付引当金は「退職給付債務」から「年金資産」(外部に積み立てている資産)を差し引いて算定するのですが、この年金資産の要件に、保険の積立が該当しないので、考慮されないこととなります。
具体的には、年金資産は、「次のすべてを満たす特定の資産をいう」とされています(退職給付に関する会計基準7項)。
- 退職給付以外に使用できないこと
- 事業主及び事業主の債権者から法的に分離されていること
- 積立超過分を除き、事業主への返還、事業主からの解約・目的外の払い出し等が禁止されていること
- 資産を事業主の資産と交換できないこと
これらを保険の積立が満たさないため、年金資産として取り扱われないということです。
保険金の積立金計上額って、保険契約者や保険金の受取人、保険の種類によって変わり、結構複雑です。
この取り扱いとなることで、結果として、複雑な会計処理にならずに済んでいるように思っており、個人的にはハッピーです。
まだあるのだろうかと思い、調べてみる
私が税務調査をしていた頃なのですが、中退共に加入していたものの、辞めた従業員にそのことを知らせずに、代表者が請求して退職金を受け取るという事例があったと聞いたことがあります。
ふと、この事例まだあるのかな?と思い退職金請求の手続きを簡単に調べてみたところ、請求に当たっては本人確認などが求められるようですので、もうこういった事例はなさそうですね。
よくわかる中退共制度 詳細版 2022.03~ (taisyokukin.go.jp)
よかったです。
日々精進。