裁決事例
令和3年26日付けの裁決事例は、非居住者であると認識して、所得税の確定申告等をしていなかったところ、税務調査により、居住者であるという認定を受け、かつ、香港にある法人の所得金額がタックスヘイブン対策税制により合算課税された事例です。
(令和3年3月26日裁決)| 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所 (kfs.go.jp)
裁決事例になるくらいですので、一筋縄ではいかないような事案の印象を受けました。
裁決では滞在日数のほか、水道や電気の使用量、住民票やクレジットカードの情報など、かなり詳細な事実の積み上げで、決定・更正処分を適法としています。
事案の概要
裁決書(抄)からの事案の概要は下記のとおりです。
- 請求人は日本国内にG1~G4社、香港にG5とG6社、中国にG7社、ベトナムにG8社を保有し、それらの役員となっていた
- 日本に滞在する際は、G1社が保有する建物(土地は請求人の所有で、事務所・居宅・車庫として利用)に滞在していた
- 平成23年に行われた税務調査で非居住者という認定を受けていた
- 調査等の流れ
-
- H29.11.6税務調査開始
- H31.3.1決定処分(無申告なので更正処分でなく、決定処分となります。)
- R1.5.24再調査請求
- R1.8.21棄却
- R1.9.17審査請求
- R2.2.28再更正
- R2.8.13審査請求
- 各年の日本滞在日数
H18 | H19 | H20 | H21 | H22 | H23 |
159日 | 165日 | 157日 | 179日 | 192日 | 175日 |
H24 | H25 | H26 | H27 | H28 | H29 |
207日 | 224日 | 217日 | 240日 | 290日 | 279日 |
滞在日数の推移を見てみると、H24年以降は滞在日数が200日を超えており、確かに日本国居住者として取り扱わないことには少し違和感を感じます(もちろん、日数だけで判断すべきではないことは承知しております)。
平成23年に行われた税務調査で非居住者であるという認定を受けたからと言って、未来永劫に非居住者として取り扱っていいという訳ではないのですが、税理士の立場になって、納税者を説得することまで考えると、実際のところは、税務署からこうやって居住者ですよと指摘を受けるまでは、積極的にステータスを変更することは難しいのかもしれないですね。
日本で課税を受けないようにするために、出国する
上記では滞在日数にフォーカスしてしまっていますが、では、日本の滞在日数を少なくしたら問題ないかと言うと、そんなことはなく、この事案と同様に、他の事実の積み重ねで居住者認定されるのがオチだと思っています。
だいぶ前になるのですが、含み益がある暗号資産などをお持ちの方が、非居住者になることを検討されているということで、どういった状況になれば非居住者として認定されるのかアドバイスして欲しいという相談を、人づてで受けたことがあります。
当時、起業家の界隈では、半年以上日本にいなければ居住者じゃなくなるといった話があったらしく、(おそらく)出国税の対象とならない暗号資産の含み益について、課税を受ける前に、日本国の居住者ではなくなってしまおうという、狙いのようでした。
相談者の方と直接お話することができなかったので、その方がどのようなお考えなのかはわからないのですが、これについては、日本でどうやったら非居住者として取り扱われるかを考えている時点でNGだと思っています。
なので、この時は、
「日本にある財産をすべて処分して、もう、二度と日本には戻ってこないくらいの覚悟で出国してください。とアドバイスしてください。」
とお伝えしました。
この説明は、税法の取り扱いを事細かに説明するのではなく(説明しても、変な更問を受け続けることとなるので)、
「半端な気持ちでちょろっと日本以外に滞在したところで、意味ないですよ。」
「日本以外の国の人になる自信ありますか?」
という意思確認となります。
「はい。私は、日本に縁もゆかりもなく、日本で財産を持ち続ける積極的な意味もないので、すべて処分して、出国します。日本よ、さようなら。」
と言えるような状況であれば、かなりの確度で非居住者になれると思っているのですが、日本でばりばり育った人が、日本でビジネスをしているのに、こんなことが本当にできるんですかね。
ふと、この裁決事例を読んでいて、当時のことを思い出しまして、書いてみました。
居住者か非居住者か微妙な状況にしておけば、税務署が指を食わえて見ているだけだと本気で思っているんでしょうか。。
そんなわけないですよね。
日々精進。