記事の内容
2022年3月22日の日経新聞朝刊に、
「ネトフリ12億円申告漏れ、日本法人に国税指摘、利益受け取らず。」
という記事がありました。
記事によると、日本法人のネットフリックスが日本で取得した配信権をオランダ法人に譲渡した際に、配信権の取得にかかった費用と経費が支払われたが、オランダ法人は取得した配信権を利用して巨額の利益を上げていたため、配信権取得費用と経費に加えて、業務に相当する利益を日本法人が受け取る必要があったと判断したとのことでした。
所得相応性基準の適用があったのかとびっくりしましたが、申告漏れの指摘期間が2019年(令和元年)12月期までの3年間ということですので、令和2年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される(SD:「令和元年版 税制改正のすべて」)、この制度の適用によるものではないようです。
どのような指摘だったのか?
記事の内容からは、指摘の内容が、無形資産の譲渡対価が低かったという認定を受けたのか、配信権取得に関する業務の対価を日本法人がオランダ法人から受け取るべきであったと認定を受けたのかが、はっきりとしません。
「配信権取得費用と経費が支払われた」だけでは、日本法人が配信権の売買から利益を得ていないので、譲渡価額が低いという認定が行われるのはわかるのですが、なぜかその利益額が、「業務に相当する利益」となっています。
右から左に流す商売で、その利益額を業務に相当する利益で算定することってあるのでしょうか?
よくよく考えてみると、第三者と交渉して配信権を得ているので、日本法人の取得対価が時価であるように思います。
そして、時価で取得したものをすぐに売る場合、取得対価=売価となってしまうようにも思います。
また、
「オランダ法人は日本法人から得た配信権を利用して巨額の利益を上げていたとして」
という点が、ややこしくしているように思います。
「日本から国外に課税所得が流出しているので、けしからん」
ということであれば、文章としてわかるのですが、オランダ法人が
「巨額の利益を上げていた」
ので、
「利益を日本法人が受け取る必要があった」
とすると、配信権の譲渡の利益額が将来の利益の状況で左右されてしまうようにも読めます。
ちなみに、「業務に相当する利益」という言葉に重きを置くと、日本法人は配信権の売買を行っていたのではなく、オランダ法人に代わって、配信権の取得に関する業務(売買ではなく役務提供)を行っていたという認定をしたということになるように思いますが、その場合、利益額をコストマークアップ方式で算定するにしても、「配信権の取得にかかった費用」って、マークアップの対象に含めるのでしょうか?
含めないと、12億円の指摘額にまでならないように思われます。
記事によると、修正申告をされたとのことですので、今後争いになることは基本的にはなく、指摘の内容が明らかになることはなさそうです。
配信権の価値算定は難しい
税務調査の内容からは外れますが、
「物の売買をしたのであれば利益を乗せるべき」
というと、至極、シンプルな論点なように思われるかもしれませんが、配信権の時価の算定って、とても難しいのではないかと思います。
仮にDCF法で算定するとした場合、配信権の将来のキャッシュインフローを見積もる必要がありますが、これがすごく難しいように思うからです。
そもそも、ネットフリックスさんのように月額制の場合、作品ごとの収益額を直接的に計算することすらできないように思います。
仮に、何かしらの方法でキャッシュフローと個別の作品を紐づけられたとしても、配信権の期間が仮に5年間だとすると、今、人気のある作品が向こう5年間で、どれだけ視聴されるのかなんて誰にも予測できないと思いますし、作品は一つ一つ違うものですで、会社の業績予測を行うときのように、過去の業績の推移などを参考にすることもできないように思います。
配信権の評価単位って作品ごとなのでしょうか?
動画配信事業って、みんなが見たいと思う作品が幅広くカバーされていないと成り立たない事業だと思っています。
すごく人気のある作品が数個揃っていたところで、すぐに飽きられて解約されてしまうため、さまざまなジャンルの作品を、相当幅広にそろえる必要があるのではないか?ということです。
そうすると、作品の中には、場を盛り上げる役割の作品もあるわけで、作品ごとに評価をすると、場を盛り上げる役割を無視してしまっているようにも思われ、場を盛り上げる役割の作品の価値はいくらかといわれると、間接的には収益に貢献しているが、購入費を購入すると、価値はマイナスですといったことになってしまうように思います。
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日々精進。