押印についてのQ&Aの公表
令和2年6月19日,内閣府,法務省,経済産業省が連名で「押印についてのQ&A」を公表しました。
押印についてのQ&A
テレワークの推進の障害となっていると指摘されている,民間における押印慣行について,その見直しに向けた自律的な取組が進むよう作成されたものです。
おおまかな内容は以下の通りです。
- 私法上,契約は当事者の意思の合致により,成立するものであり,書面の作成及びその書面への押印は,特段の定めがある場合を除き,必要な要件とはされていない。
- 特段の定めがある場合を除き,契約に当たり,押印をしなくても,契約の効力に影響は生じない。
- 押印に代えて、取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存(請求書、納品書、検収書、領収書、確認書等)といったような様々な立証手段を確保しておき、それを利用することが考えられる。
印紙税への影響
このQAを読んで、印紙税実務にも影響があるのではないかと思いました。
まず、印紙税は納税義務者と納税義務の成立の時を以下のように定めています。
印紙税の納税義務は、課税文書を作成した時に成立し、課税文書の作成者が、その作成した課税文書について印紙税を納める義務があります(法3、通則法15⓶十二)。
「印紙税の手引き」12頁 国税庁
課税文書の作成とは、単なる課税文書の調整行為をいうのではなく、課税文書となるべき用紙などに課税事項を記載し、これをその文書の目的に従って行使することをいいます。
したがって、課税文書の「作成の時」は、その行使の態様によりそれぞれ次のとおりになります(基通44)。行使の態様:契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書
作成の時:証明の時
例示:各種契約書、協定書、約定書、合意書、覚書「印紙税の手引き」12頁 国税庁
そして、実務的には、この「証明の時」を契約当事者が押印をしたときとしていると理解しています(「証明の時」について厳密には押印のときではないと聞いたことがありますが、アカデミックな論点であるため割愛)。
よって、「押印についてのQ&A」にあるような対応が進むことで、実務的には契約書に印紙税を貼付する機会が減るのではないかと思っています。
いっそのこと、印紙税を廃止してしまってはどうか?
PDFデータでのやりとりやFAXの場合は、その契約書に印紙の貼付は必要ありませんが、契約書を紙に印刷して押印などの証明行為を行った場合には印紙の貼付が必要となります。
よって、契約書のやりとりをPDFにて行うことに抵抗がない業種などでは、印紙税節約の観点から、この方法により契約の締結を行って、印紙税を節約していると思います。
印紙税が立法されたときにはおそらくですが、FAXやPDFデータでのやりとりが存在していなかったと思われ、その後も大きな改正等は行われていないので、このような形式的な違いで課税関係が変わってしまう状況となっているのではないかと思っています。
また、不動産業や銀行業など特定の業種にその負担が偏っているように感じますし、これも是正すべきではないか?と感じています(実際、業界団体が税制改正要望で廃止を提案していると思います。)。
さらに、所得税や法人税等の他の税金と違い、具体的な取り扱いについての情報がかなり限られているように感じており、ご質問を受けた際に、経験則で課税もしくは不課税と判断できたとしても、根拠を示すことに難儀することが多いです。
この印紙税ですが、会社にとっては日常的に生じる身近な税金ですので、印紙税に関するご質問を受ける頻度は高いです。
結構ややこしい税金(形式的な側面が強いので、慣れると一義的な判断は容易となります)であるものの、金額的なインパクトが小さくなりがちで、クライアントも実はそこまで重視していない様子であったりすると、対応していて少しむなしさを感じることもあります。
特に2号文書「請負に関する契約書」に該当するか否かの判定を行うには、かなりのリサーチが必要となるのですが、2号文書の印紙税額は高くても一通あたり数万円くらいになることがほとんどでして、そのような時など、いっそ保守的に印紙を貼ってしまった方が経済合理性があり、みんなハッピーなのではないかと思ってしまいます。
日々精進。
2024年7月2日に「税務調査を今一度ちゃんと考えてみる本」(税務経理協会様)が発売されます。