コラム

移転価格税制における子会社貸付金利率

一昔前の移転価格調査

私が国税調査官をしていた頃は移転価格税制といっても、調査部特官が所掌しているような超大規模法人に対してのみ指摘をしているという印象で、国税局調査部の一般部門、まして税務署の調査では移転価格税制での否認はほぼなかったのではないかと記憶している(詳しくは知らないが。)。

会計士つながりで、上場企業のCFOとして活躍している会計士などから、移転価格についての相談を受けることがよくあるが、
「調査部特官が所掌するような法人くらいにしか移転価格税制の調査は行っていないと思う。否認するための工数がかかるため、取引規模が相当程度ないと割に合わないからだと個人的には思っている。」
「実務的に否認されているのは、子会社支援を目的として、意図的に取引金額を低くしていた場合で、稟議書などにそのものずばりの内容が書かれていた場合に、あるべき取引金額と実際の取引金額の差額について、移転価格税制ではなく、国外関連者寄附金で否認しているくらいだと思う。」
と回答していた。

ところが数年前から「簡易な移転価格調査」ということで、調査部の一般部門であっても、移転価格税制の指摘を行う方針となったようで、移転価格税制が議論の俎上に上がることが増えてきたように感じている。

子会社貸付金利率の算定

簡易な移転価格調査において、よく議論となる論点として、在外子会社に対する貸付金の利率があるが、適正利率の算定方法が、一見簡単なように見えて、調べていくと複雑な論点だとわかった。

移転価格税制の検討にあたっての参考情報として、国税庁が公表している「事務運営指針」や「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」がある。https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/010601/00.htm

この中で子会社貸付金の金利の算定方法についての解説があり、非常にざっくりと説明すると、次の4つの方法を順番に検討していき、適用可能なものを採用することとされている。

  1. 法人にとって比較可能な第三者貸付けがあれば、これを基準に、通貨及び貸付時期、貸付金額及び貸付期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等)、借主の信用力、設定される担保、保証の有無、為替リスクなどの要素を総合的に勘案して独立企業間利率を算定する
  2. 借り手が、銀行等から親子間貸付と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況化で借り入れたとした場合に付されるであろう利率
  3. 貸し手が、銀行等から親子間貸付と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況化で借り入れたとした場合に付されるであろう利率(調達利率)
  4. 親子間貸付に係る資金を、通貨、貸借時期、期間等が同様の状況化で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率(運用利率)

まず、1に該当する事例はほぼないと思われる。そこで2~4を順番に検討していくこととなるのだが、2は海外ということもあり実務的には難しく、次に3を検討することとなる。

この3がなかなかの曲者で、具体的な算定方法として「銀行の調達金利+スプレッド(銀行にとっての利益)」という方法が認められており、この計算式はシンプルであるものの、そもそもこのスプレッドをどうやって算定するのか、実際にあった取引におけるスプレッドである必要はないのか、一応の参考になるようなスプレッドがあったとして、その算定方法の詳細が不明であるような状況においてもこれを根拠にして算定してよいのか?という疑問がある。

銀行が資金を貸し付ける際にどのようにスプレッドを算定しているのかについて、詳しくはないのだが、一般的には、借り手の信用力や過去の取引実績、財務状況、資金使途、借入期間、担保や保証の有無など、さまざまな要素を基に算定しているように思われ、本業として金融業を行っていない一般事業会社にとって算定可能なのかという疑問がある。

では、取引銀行に、同条件で借入を行った場合の利率とスプレッドを聞いてみればいいではないかとなるわけであるが、銀行が、(銀行にとっての利益を意味する)スプレッドを教えてくれるのかという疑問があるし、仮に、スプレッドを教えてもらえたとしても、その算定方法までを知る術はないのではないかと思う。

国税のスタンス

ちなみに、国税のスタンスは3(調達利率)とのこと。

「金銭の貸付け又は借入れに係る独立企業間価格(利率)について」(国際税務26巻9号(2006)32頁)に下記の記載がある。

上記(ロ)の方法は、同様の条件で同一の通貨の国債で運用した場合に得られるであろう利率、すなわち、機会コストをもって独立企業間価格(利率)として取り扱うものです。上述のとおり、実務上、通常、上記(イ)の方法が用いられますので、この(ロ)の方法が用いられることは、基本的にありません。

※(イ)は、「貸手が非関連者である銀行等から通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に通常付されたであろう利率」のこと。

タイバーツ移転価格事件

少し古い判例であるが、「タイバーツ移転価格事件」(東京地裁平成18年10月26日判決。納税者敗訴。控訴せず確定。)という税務訴訟が公表されている。

概要は、日本企業(東証1部。自動車部品等のサプライヤー)がタイの子会社に以下の内容でタイバーツ建ての貸付けを行ったところ、利率が適正ではないとして更正処分を受けたもの。
(貸付の概要)

貸付期間:平成9年1月~平成10年11月

貸付回数:6回

貸付利率:年2.5%~3.0%

利払い:年一回の後払い

返済:貸付けの4年後以降1年ごとに7回に分けて均等に返済

貸付総額:1億2,822万5,000タイバーツ(約449百万円)

(更正処分の内容)

貸付利率:年10.5%~19.2%

算定方法:スワップレート+スプレッド(「短期プライムレート」-「円LIBOR」)

納税者が貸付けを行っていた頃は、アジア通貨危機で理論上は貸付利率を算定できたとしても、実際に貸し付けを行う事業者はいない(リスクが高すぎるため。ゆえに算定される利率も高くなる。)という状況にあったようで、そのような状況であって、かつ、実在しない取引を想定して課税処分をすることが認められるかという点が論点の一つであったようである。

この点について、裁判所は「実在の取引を比較対象とすることを原則とするが、そのような取引が実在しない場合において、市場価格等の客観的かつ現実的な指標により国外関連取引と比較可能な取引を想定することができるときは、そのような仮想取引を比較対象取引として独立企業間価格を算定することも、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法として許容できる」等の理由から、更正処分は適用であるとしている。

OECD移転価格ガイドライン

2020年2月11日にOECDから金融取引に関する移転価格ガイドラインが公表されている。

当該移転価格ガイドラインで、以下の通り、バンカビリティ・オピニオン(銀行が発行する意見書のようなもの)は実際の取引ではないので、独立企業原則からの逸脱を意味する旨が明記されている(納税者が移転価格税制対策としてバンカビリティ・オピニオンをとることが行われており、これに対するコメントである)。

C.1.2.6. Bank opinions

10.107. In some circumstances taxpayers may seek to evidence the arm’s length rate of interest on an intra-group loan by producing written opinions from independent banks, sometimes referred to as a “bankability” opinion, stating what interest rate the bank would apply were it to make a comparable loan to that particular enterprise.

10.108. Such an approach would represent a departure from an arm’s length approach based on comparability since it is not based on comparison of actual transactions. Furthermore, it is also important to bear in mind the fact that such letters do not constitute an actual offer to lend. Before proceeding to make a loan, a commercial lender will undertake the relevant due diligence and approval processes that would precede a formal loan offer. Such letters would not therefore generally be regarded as providing evidence of arm’s length terms and conditions.

(SD:「OECD移転価格ガイドライン10.108」
https://www.oecd.org/tax/beps/transfer-pricing-guidance-on-financial-transactions-inclusive-framework-on-beps-actions-4-8-10.pdf

このガイドラインのコメントに沿えば、今後は、実際の取引ではない上記3(調達利率)による算定は行えないこととなるように思われるのだが、日本の税法や通達が改正されたわけではないため、税務調査における取り扱いは不明。

裁決事例

裁決事例をリサーチしてみたところ、下記の二つの裁決事例が見つかった。

①平成29年9月26日裁決(上記4(運用利率)による算定方法が認められた事例)

(平成29年9月26日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

納税者が米国子会社に2%の利率で貸付けていたところ、貸手の銀行調達金利による方法(米ドルスワップレートにスプレッドを加えた利率)で更正処分がなされたもの。

審判所は、国税が認定したスプレッドについて、主要取引銀行の担当者からの回答を基礎としているが、正式な回答ではなく、その根拠についても記録が残されていないため、スプレッドとしての正確性を有するとは認められず、これを採用することは相当ではない、として米国債の利率で適正利率を算定している。

②平成28年2月19日裁決(上記3(調達利率)による算定方法での課税を認めた事例)

(平成28年2月19日裁決) | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所

納税者が米国子会社に貸し手の調達金利により算定した●%(裁決書には記載がなく不明)の利率で貸付けを行っていたところ、(納税者は貸付資金に充てるため、銀行からの借り入れと銀行引き受けの社債の発行を行っていた)、国税は貸し手の原資の借入期間(3年2か月)と貸付期間(10年又20年)が同様の状況にないため貸し手の調達金利によらず、貸付期間(10年又20年)に係るスワップレートにスプレッドを加えた利率で更正処分がなされたもの。

審判所はスプレッドについて、「本件各借入れ等は本件各貸付けと同一通貨、同時期、ほぼ同金額のものであるから、本件各借入れ等のスプレッドを基礎に貸借期間等の諸要因による影響を勘案した上で用いることにも合理性があるといえ」るとして、更正処分に違法性はないと判断している。

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