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【会計】「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」が大変そうです

会計のはなし

監査法人主催のスポット研修に出席して気づきました

私が以前所属していた監査法人は、監査クライアントなどの外部の方向けに、会計や税務に関する改正事項などを説明する研修(スポット研修)を提供しており、トーマツOBも視聴することができます。

会計に関する改正は、会計監査をしていないと、適時に把握するインセンティブがあまりないので、この研修で改正内容をアップデートするようにしています。

その研修で、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」についての説明がされていたのですが、

「そこまでやるか~!?」

という内容だったので、少し紹介してみたいと思います。

法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準の公開草案の内容

2022年3月30日にASBJから下記のとおり、公開草案が公表されています。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2022/2022-0330.html
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/zeikouka2022_02.pdf

改正の主な内容は、

  • 税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)
  • グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果

の2つとなります。

このうち、税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)が、ちょっと、えぐいなという感想を持っております。

ざっくりと説明すると、グループ通算制度の開始又は加入時の時価評価や、非適格組織再編による時価評価が行われた場合に、税務上は資産の評価損益が課税所得として認識されるものの、会計上は評価損益が包括利益として処理されている場合(PLに計上されていない場合。その他有価証券評価差額金など。)があり、そのような場合は、評価損益にかかる税金費用をPLに計上することは妥当ではないので、PLではなく、BSに計上しましょうという取り扱いとなります。

本公開草案が提案する会計処理を適用する企業として、下記の通り紹介されています。
((3)、(5)は会計士試験で勉強したのでぎりぎり理解できるのと、(4)は原則法で退職給付会計を処理されていた会社の監査を担当したことがあるので、一生懸命思い出せば、何とか理解できそう、といった感じです。それくらい、マニアック。)

https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/zeikouka2022_01.pdf

少額の「その他有価証券評価差額金」が計上され続けている会社もあったりするので、案外対象となる会社が出てきてしまうのではないかと気になったのですが、ちゃんと、金額的な重要性が乏しい場合の取扱いがありました。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/zeikouka2022_02.pdf

ちゃんと手当がされており、良かったと思います。

理屈は理解できますが、これを適切に会計処理するのって大変そうに思います

基準を読んだだけでは具体的なイメージを持てなかったので、設例(基準案の20頁以降に記載されています)を読んでみました。
https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/zeikouka2022_02.pdf

X1年3月期の会計処理

税務上、時価評価が起きた事業年度(X1年3月期)においては、会計と税務の有価証券の帳簿価額に差はないのですが、会計上は評価損益が「その他有価証券評価差額金」(包括利益)として処理されており、税務上は評価損益として課税所得が生じている状況となりますので、今回の改正の対象となります。

具体的には、「その他有価証券評価差額金」に税率を乗じて算出した金額を、「その他有価証券評価差額金」のマイナスとして処理します。

X2年3月期の会計処理

有価証券の時価が変動した場合(200減少)の会計処理は、下記の通りとなります。

X1年3月期は税務と会計の帳簿価額が一致していたので、税効果会計の対象となりませんでしたが、X2年3月期は税務と会計の帳簿価額に差が生じることとなりますので、こちらは税効果会計の対象となります。

なので、「その他有価証券評価差額金」の相手勘定は「法人税、住民税及び事業税」ではなく、「繰延税金資産・負債」で処理することとなります。

X3年3月期~X4年3月期の会計処理

X3年3月期は、税率変更なのでスキップします(税効果会計の既存論点)。

X4年3月期は、有価証券を売却した事業年度なのですが、ここが結構えぐいことになっています(下図のとおり)。

一つ目と二つ目は通常の有価証券の売却処理です。

三つ目は、「その他有価証券評価差額金」のリサイクリングに伴い、X1年3月期に減らしていた、「法人税、住民税及び事業税」を復活させている処理です。

四つ目は、繰延税金資産の取り崩しです。

五つ目は、会計上認識した株式売却益300に係る法人税額をあるべき金額に修正しています。

三つ目の仕訳で、X1年3月期に減らしていた「法人税、住民税及び事業税」150を、復活させていますが、このままだと、売却益300にかかる「法人税、住民税及び事業税」の金額(300×30%=90)になっていません。

よって、税務上の株式譲渡損益分の「法人税、住民税及び事業税」を調整することとなります。

税務上は200の損失(1,300-1,500=△200)ですので、60(△200×30%)をマイナスすれば、150-60=90となり、売却益300にかかる「法人税、住民税及び事業税」90が正しく計上されるということです。

ただ、この仕訳をややこしくしているのが、税率の改訂でして、税率がX3年3月期に30%から20%に代わっていますので、税務上の損失200にかかる税額は40(200×20%)で計算されています。

おそらくですが、この5つ目の仕訳は、実務上は、他の課税所得にかかる法人税額の計上と一緒に処理されるのではないかと思います。

ちなみに、前提条件(2)(5)において「当該その他有価証券の売却損益を除いても課税所得が生じている」とされているのですが、課税所得が生じていない場合を考え出すと、よりカオスになるような気がしています。

2種類の税効果会計をやっているようなイメージかなと思います

ちなみに、手書きで検討するとこんな感じになりました。
(仕訳の検討は実際に書いてみるのが大切。)

税効果会計を2つの種類にわけて行っているようなイメージではないかと思います。
(会計上PLで処理される部分と、BSで処理される部分とに着目したズレ(ピンクハイライト)と、会計上と税務上の簿価の違いに着目したズレ(緑ハイライト)との2つです。)

おそらく別表4の調整もややこしい

何も考えずに機械的に、税金を加算減算調整して所得計算に影響させないようにすれば、正しい別表調整ができるかもしれませんが、これをしっかりと理解をしようとして、別表調整にチャレンジすると、かなり難しいのではないかと思います。

有価証券の会計処理と税務処理を把握して、その違いから必要となる税効果会計を理解し、さらに包括利益の会計処理を理解したうえで、この改正を理解する必要があるためです。

これに対応することによるベネフィットはいかに

会計基準を作る人たちの飽くなき会計の探求心といいますか、会計上のあるべき姿を目指すための労を目の当たりにすると、

「すごいなぁ~」

と思ってしまいます。

「そこまで厳密に追い求めなくてもいいんじゃない?」

とはならないものなのでしょうか。

ただ、

「投資家の方って、税金費用をそんなに意識しているものなのでしょうか?」

という素朴な疑問があります。

税前利益に実効税率を乗じた金額と、税効果後の税金費用の額に開きがあると、税務調査で追徴課税を受けたと推測が付くようで、そういった問い合わせがくることもあるように聞いたことはあるのですが、税金費用と言っても、これくらいでしか利用されていないのではないかなと思っています。

なので、改正後のレベル感で、税金費用を適切に表示して欲しいと考えている投資家がどれくらいいるのかと言うと、

「ん~、あまりいなそう。」

というのが正直な感想です。

でも、改正されていますので、やはり重要な論点だったのかもしれません。

いずれにしても、まだ公開草案の段階ですので、経過をひっそりとウォッチしておこうと思います。

日々精進。


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