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移転価格税制の対応

法人税のはなし

移転価格税制の相談

先日、知り合いの会計士(上場企業のCFO)から、移転価格税制についての相談を受けました。

時期的に税務調査で指摘事項に挙がったかなぁ?と思ったのですが、話を聞いてみると、そうではなく、移転価格税制の対応をするにあたって、大手の税理士法人に依頼したほうが税務調査でより良い反応を得ることができるという話を聞いたが、元国税調査官としてこの話をどう思うのか?という相談でした。

「誰が作ったかより、中身の方が重要。」

と答えました。

移転価格税制とは?

移転価格税制って、ざっくりいうと、独立企業間価格を算定して、それと海外の関連企業との取引価格に乖離が生じていることで、日本の課税所得が国外に流出していないかを検証するものです。

独立企業間価格は、独立した当事者間で行われた取引の価格ですので、海外の関連企業の担当者と、日本側の担当者を会わせて、独立した会社同士として、取引の交渉をさせて、その交渉で決まった価格を独立企業間価格であると主張しても、あながち間違いではないということとなります。

このような対応が認められるのであれば、非常にシンプルな対応で済むのですが、実際にこれが用いられない理由は、交渉相手が純粋な第三者ではないため、実際に独立当事者間で行われるような交渉が行われたとしても、「言うても、関連企業との交渉でしょ。」となってしまうためです。

なので、法律や事務運営指針などで、独立企業間価格の算定についてのルールを定めて、そのルールに、適切に、沿って算定された価格であれば問題なしとしますよというのが、この税制であるわけです。

何が「適切」なのかがコントラバーシャルな訳であるわけですが。

独立企業間価格の算定に一番精通しているのは誰か?

独立企業間価格の算定に当たって、一番重要な要素は何か?

その企業が置かれている事業環境、売買やサービスの対象物をよく理解していることが重要な要素だと私は考えています。

そして、これらに一番精通しているのは、会社のご担当者様にほかならないと考えます

よって、独立企業間価格の算定に一番精通しているのはその会社ということとなります。

もちろん、移転価格税制の文書化対応などの普段対応することのないルールに、漏れなく適切に対応するためには、移転価格税制を専門としている税理士さんにお願いされたほうが良いと思うのですが、文書化にあたっての情報(つまり独立企業間価格の算定基礎)の収集・整理は、会社のご担当者様が対応されることが一番良い方法なのではないかと思います。

それがリソース的に難しいので外部に委託することとなるのだと思いますが、外部に委託するにしても、大手の税理士法人にサポートをお願いされるのか、もともとお付き合いのある税理士さん(こういったとがった業務にも、ご対応いただける柔軟な方)にお願いされるのかでそこまで大きな違いは、正直ないのではないかと考えています。

公表情報だけであるべき独立企業間価格って算定できると思いますか?

独立企業間価格は、公表されている情報をもとにして、算定することが一般的です(まったく同種・同条件の取引があれば別ですが、実際はほぼないのではないかと思います)。

この公表されている情報というのが、ネックでして、昨今の世の中で、財務情報等を公表するような会社(日本でいうと上場企業が有価証券報告書を公表しています)が、単一製品・サービスの販売一本足でビジネスをやっています!!などといった状況はないと思っています。

また、複数の事業を行っている場合は、セグメント情報でセグメントごとの大まかな利益の状況等を知ることはできますが、移転価格税制が制度として求めているような粒度ではないと思っています。

しかしながら、たとえば、取引単位営業利益法などを使用する場合は、このざっくり利益情報を使って、独立企業間価格を算定するのですが、検証の対象となる取引以外の取引もたくさん混じってしまっているように思われ、言葉を選ばずにいえば、一応のできる限りの粒度で計算したし、実際はレンジなども使ったので、だいたい合っていますよねといったレベル感で、独立企業間価格を算定しているように思います。

実際の独立企業間価格の算定資料を見て思ったこと

独立企業間価格の算定に当たっては、ビジネスがシンプルな会社側の情報で算定します。

たとえば親会社が製造業でいろいろな製品を製造販売している中で、他国にある子会社がそれを輸入して販売しているような場合は、基本的には子会社のビジネスの方がシンプルですので、子会社の利益率がどのようになっているかなどを検証して、移転価格税制上の問題がないかを検証することとなります。

このケースで、親会社が主導して、子会社との取引の独立企業間価格を算定する場合は、子会社の所在地国の同業他社で同じようなビジネスをしているであろう会社の情報をピックアップしてくることとなるわけですが、たとえば、日本産業分類のような業種ごとに設定された番号を使って同業他社の情報をピックアップして、その中から、明らかに同業ではない法人を除く作業を行います。

この作業が、親会社の現地国の法人について行うのであれば、まだ精度が良いかもしれないのですが、子会社の現地国の同業他社ですので、作業のレベル感に限界があるのではないかと感じています。

たとえば、日本の携帯キャリアといえば、ドコモとauとソフトバンクが大手としてあって、それ以外で楽天モバイルなどがありますよと、日常から知りえる情報で判断できるわけですが、海外の方からしたら、ドコモってなに?となるわけです。

イタリアの国税当局が日本の同業他社の情報を使って、独立企業間価格を算定して課税している資料を見たことがあるのですが、正直、「う~~ん、おしい、、この会社は確かに同業っぽいけど、絶対に除いた方がより適切。こんなに粗くていいんだなぁ。」と感じました(イタリア語の資料を英訳していただいて、それをひたすら読みました。)。

なので、この、現地国の同業他社の情報を収集するというフェーズにおいては、国際ネットワーク面において、大手税理士法人に依頼する方が良いのではないかと思っています。

あと、移転価格税制って国によって制度が違うらしいので(詳細は意識して調べたことがありません)、その違いも意識した対応ができるように思います。

ちなみに、それを専門にしている人に情報が集まるので、専門にしている人に相談することで同業他社の事例を聞くことができるというメリットがあると思いますが、税務に限っては、公表されたQ&Aなどに沿って、対応することが一般的(公表物に沿わない対応をするということはある意味チャレンジをするということでして、リスクを取らない一番の方法は公表されたものに沿うことです。)ですので、同業他社の事例を見聞きすることができても、結局のところは、どこも同じような対応をしているということがわかるくらいなのかなと思います(国税の在籍時の経験も踏まえて、そう思います。)。

そもそもどの分野から対応すべきか

こういったことを言うと、批判を受けてしまいそうですが、移転価格税制の対応って、売上高数千億円くらいの規模感になってこないと、実際に指摘を受ける可能性は他の税制に比べてそこまで高くないのではないかと思っています(簡易TPではなく、メインの事業のTPについてです。)。

なので、法人税や消費税や源泉所得税の一般的な論点対応をしっかりと行って、足元をがっちり固めた後に、移転価格税制の対応でもよいのではないかと思っています。

もちろん、会社規模も取引規模も大きくなってからでは、対応が大変になってしまうので、あまりほったらかしという訳にもいかないと思いますが、経理財務部の方々の業務って税金だけではないですし、売上高数兆円クラスの超大規模法人クラスにならないと、人的リソースが限られるように思っていますので、そのような状況で、移転価格税制に真っ先に取り組む必要まではないのかなと思っています。

もちろん、アンテナを高くはって、いろいろな情報を収集して対応されていること自体を否定したいわけではありませんし、だいぶ移転価格税制も浸透してきたんだなぁ、と税務を生業にしている人間として嬉しく思っております。

税務リスクをゼロにすることは可能か?

これは何となく、そのように感じるということでしかありませんが、税務リスクをゼロにしようとする傾向があるような気がしています。

世の中の取引が今よりずっと単純で、税法もそこまで複雑ではなかった時代であれば、真剣に取り組むことで税務リスクをゼロのような状態にできたのかもしれませんが、これだけ世の中の取引が複雑化してきて、かつ、税法もどんどん複雑になり、移転価格税制や組織再編税制のように、白黒はっきりさせることのできない制度が導入されてきた現状では、真剣に検討することで、丸腰で税務調査に臨むという悲惨な状況は避けられるにしても、絶対に大丈夫!!という状況までには、どこまでやっても辿りつけないように思っています。

なので、すべての税務リスクに対応しようとするのではなく、金額的にクリティカルヒットとなりうる税制にまずは対応しておき、企業規模が大きくなっていくにつれて、対応する範囲をどんどん広げていくことが、全体最適につながるのではないかと思います。

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