コラム

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アーンアウト条項は税務上どのような取扱いになるのか

所得税のはなし

アーンアウトの所得区分

税務通信3591号(2020年02月03日)で、アーンアウトの所得区分について、下記の様な解説がされている。

M&Aで株式を譲渡する場合に,いわゆる“アーンアウト条項”が付された株式譲渡契約を締結することも多くある。アーンアウト条項付の契約では,株式の譲渡対価の一部が,株式の譲渡時点から一定期間経過後に調整金額等として支払われる。
ここでいう調整金額の所得区分を規定した法令や通達は存在しないところだが,実務上は,過去の判決を参考に,その所得区分を判定することになるという。アーンアウト条項付株式に係る調整金額の性質を踏まえると,「雑所得」に該当することが基本となるようだ。

「株式譲渡益課税のあらまし Q&A」

また、雑所得に該当することに関して「株式譲渡益課税のあらまし Q&A」において、下記の様な説明が国税職員向けにされている。

(1)所得区分等
クロージング時に支払われる譲渡対価については、原則、株式を引き渡した日の属する年分の株式等の譲渡による譲渡所得等となる。
また、各アーンアウト対価については、原則、それぞれの対価の支払が確定した年分の雑所得となる。
※ただし、外部からはどのような事情により契約に至ったのか分からない場合もあることから、当事者間で合意された事情に照らして所得区分を検討する必要があることに留意する。

所得区分については様々な考え方があるため、その議論は他の専門家の方にお任せするとして、ただし書きにある留意事項について、国税職員がどれだけ真摯に向き合ってくれるのかという点について疑問がある。

当該Q&Aを作成した国税庁としては、
「おおきな方針としてはアーンアウトは雑所得に該当するという整理をしましたよ、でも、そもそもアーンアウトといっても背景事情等は全く違うので、アーンアウト=雑所得と考えるのはだめですよ。背景事情等を把握したうえで判断してください。」
といったことを言っているのだが、当該Q&Aにはどのような要素(事情)があれば、譲渡所得に該当するのかといった点については触れていない。

このような解説を読んで、税務署の窓口などで納税者の応対をしている国税職員が、自らの判断で、「本件アーンアウトは譲渡所得として取り扱うことで問題ありません」という回答をするのかと言われると、おそらくないと思われる。

感覚的なものであるが、アーンアウトが実務上どのような背景事情により設定されているのかを、実務感覚として理解している国税職員はかなり限られるように思われ、そういった面からも個別事情を勘案して所得区分を判断するということは難しいのではないかと思われる。

どうやってアーンアウトを捕捉するのか?

元国税調査官だからか、この手の論点を検討する際に、税務署はどうやってアーンアウトを捕捉するのだろうか?ということも考えるのだが、本件の場合、株式譲渡時の譲渡所得の申告時点では特にアーンアウトが議論となることはなく、その後、アーンアウトの追加支払いがなされた段階で議論になるように思われる。

アーンアウトを捕捉する方法として、資産課税部門が納税者に書面照会を行い、譲渡申告にかかる株式譲渡契約書を入手し、アーンアウト条項の有無を把握することも考えられるが、まだ、アーンアウト条項が達成されるか否か不明な時点では、(雑所得を前提とすると)課税関係が生じることはないため、この時点でアーンアウトを調査項目として調査着手するということは考えにくい。

よって、その後にアーンアウトの支払いが行われたタイミングをさらに把握する必要があるが、買主が個人であった場合には把握しようにも、売り主が自ら申告を行うまでアーンアウトの支払いを把握する制度はないように思う(買主が法人の場合は法定調書により把握できる可能性があると思われる。)。

初めから全額を譲渡所得として申告した場合

では、アーンアウト分の対価についても株式譲渡時に権利が確定しているという整理をしたうえで、株式譲渡時の確定申告でアーンアウト分も含めて譲渡所得で申告しておき、その後、仮にアーンアウト条項未達により追加支払いが行われないこととなった場合には、更正の請求をするという対応をした場合はどうなるのであろうか?

条件が達成された場合、追加で支払われることとなるアーンアウト対価については過去の申告において譲渡所得として申告済みであるため、納税者が追加の申告を行うことはなく、納税者から税務署に対して積極的なアクションが起きることが想定されないように思われる(法人が買主である場合は、法定調書が提出される可能性がある。)。
結果として、アーンアウトの所得区分が妥当であるかについて税務署側からの積極的な検討がされることもなく、譲渡所得としてスルーされてしまうのではないだろうか(念のため付言するが、スルーされるからそれでいいではないか、ということを言っている訳ではない。)。

なお、当該対応について、納税者目線に立ってみると、まだ支払いを受けていないアーンアウト対価についても納税しなければならない(それだけ一時的な手取りが減る)、条件未達となった場合に更正の請求で救済されるのかについて100%大丈夫という保証はない、スルーされただけで税務署から譲渡所得であることについて認められたわけではないため、時効を迎えるまでは雑所得と認定され、追徴課税を受けるのではないかという不安が残るといった様々なデメリットがある。

よって、実際には上記のような対応はそう簡単には取りえないように思う。

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